「跡取りは選ばれた存在ではなく、毎日選び続ける人」。 名古屋の老舗「寿商店」の二代目・森朝奈さん。その華やかな活躍の裏側で、彼女が向き合っていたのは、メディアが騒ぐ「美人魚屋」という虚像と、誰からも正解を教えてもらえない「評価の空白」という孤独でした。先代への敬意と変革への焦り。周囲の期待と遠慮の狭間で板挟みになり、会社のために良かれと思ったデジタル推進でも苦戦する日々。逃げ場のない場所で、彼女はどんな跡取りとなることを決めたのか。二代目のサバイバル・マインドに迫ります。

IT企業で効率化を学んできたものの

森朝奈
楽天退職後は家業「寿商店」の2代目常務取締役になった森さん

── 名古屋市で鮮魚販売や飲食店を展開する「寿商店」の2代目常務の森朝奈さん。楽天でITや組織作りを学び、満を持して実家に戻られたわけですが、最初はかなりのギャップがあったそうですね。

 

森さん:そもそも楽天には、家業の「経営の穴」となっていたEC事業を学びたくて入社しました。だから戻ってすぐに、学んだことを生かしてEC事業を内製化しました。あわせて父の過労による体調不良をきっかけに家業へ戻ったので、父にかなり属人化していた当時の家業をみて、わたしが跡取りとして組織づくりをし、家業の発展を担いたいと思い、社内のデジタル改革をしようとしたんです。当時はそれが跡取りとしての自分の使命だという強い想いがありました。

 

── ですが、現場の反応は違った。

 

森さん:私としてはポジティブな反応が返ってくると思っていたのですが、現場の方々にはそれがなかなかメリットとして伝わらず、社内のデジタル改革は難航しました。今思うと、寿商店の強みは、魚屋の対面販売であったり職人さんの培った技術など、手触り感のある対応です。デジタル化はその価値を最大化するための「手段」。そこに気づき、自社の強みを支える形を模索し始めてから、ようやく現場との歯車が噛み合い始めました。

 

── 良かれと思った改革が理解されない。会社員時代のように明確な評価があるわけでもない。後継者ならではの「孤独」もあったのでは?

 

森さん:そこは本当に悩みました。会社員であれば、実績が給料や評価に直結しますが、跡取りはそうはいかない。誰も「そのやり方は間違っている」と面と向かっては教えてくれません。社長である父のやりたいことを実現する右腕でありながら、いずれ自分が担う未来の組織作りも主導し改革もしなければならない…。常に正解のない板挟みの状態でした。

 

── 誰にも正解を委ねられない環境で、その孤独を、どう乗り越えたのですか?

 

森さん:結局、自分の働きがいは自分で見つけるしかないんです。私はとにかく現場に出て、お客様から直接「ありがとう」と声をかけていただくことで自分を奮い立たせていました。バックオフィスだけではなく、現場にも時間を見つけて出向きました。現場での体温のあるコミュニケーションこそが、私にとって最大のモチベーションでした。