「愛しているならサインして」婚前契約の衝撃

── それでも少しずつ価値観に違いが出てきた、と。

 

Ryoさん:彼女は芸術家の家系でお父さんが版画家、お母さんが美術の先生で、ノルウェー政府指定のアートコロニーで生まれ育った理想主義者。僕はチャレンジを大事にするリアリストです。最初はお互いの性格や生まれ育った環境の違いに惹かれましたが、言い換えれば元々ボタンの掛け違いがあったということ。思い返せば最初の違和感は、婚約中に、彼女が弁護士を通じて「婚前契約書」を送ってきたことでした。

 

── 婚前契約書は、アメリカではかなり一般的なようですよね。

 

Ryoさん:そうですね。ただ、内容を読むと「彼女の意思次第で僕が住居を即退去しないといけない」など、かなり偏っていると感じました。そこで話し合いを持ちかけたんですが、彼女は「話はしない。私を愛してるなら、あなたはサインするべきなんだ」と言うんです。会話が成り立たないことに絶望し、一度は婚約破棄も考えました。結局、彼女のほうで契約書を直してくれたんですが、それが価値観のズレを感じた最初の出来事でした。

 

── そのズレが深まったのはどんな出来事だったのでしょうか?

 

Ryoさん:彼女はもともと友達が多く、付き合いがよくて、そんな博愛主義的なところを僕は魅力的に感じていたのですが、結婚して子どもが産まれてからも以前同様友人たちとつるんではお酒を飲むことが多くて…。逆に僕はお酒を控えるようになっていきました。

 

── 元奥さんのそんな様子をどんな気持ちで見ていましたか?

 

Ryoさん:彼女が友達と飲みに行くたびに、僕は「あぁ、また酔っ払って帰ってくるのか…」と暗澹たる気持ちになりました。悪いことは重なるもので、僕が講師をしていた美術学校が縮小して仕事を失ったこともあり、僕自身イライラしがちでした。「なんで酔っぱらって帰ってくるんだ!」と彼女に怒鳴ったこともあります。

 

今思えばモラハラっぽくなっていたかもしれません。結婚を維持するためにふたりして結婚カウンセラーに通っていましたが、最終的にはお互いの努力さえもボタンのかけ違いで噛み合わず、相手をイライラさせるばかり。結局結婚15年目で破局を迎えました。悲しい思い出です。娘たちにはつらい思いをさせました。

多額の弁護士費用、共同親権…米国の離婚事情

Ryo Hayashi
オフの日は自分が出演した舞台の動画を視聴し、ネタのブラッシュアップを欠かさない

── アメリカで離婚となると、どんなプロセスになるんでしょうか?

 

Ryoさん:僕の場合、別居もひと筋縄ではいかなくて、彼女の弁護士から突然「セパレーションアグリーメント(別居合意書)」が送りつけられてきたんです。お金のことや、親権のことが全部書いてあるものですが、「婚前契約書」の件があったので、嫌な予感がしました。結果は予想が的中。事前に話したときは「共同親権で育てよう」ということだったのに、合意書では僕は子どもたちとは一緒に住めないという内容でした。

 

── そもそもアメリカの共同親権はどんな感じで行われることが多いんですか?

 

Ryoさん:僕が知っている限りでは、「平日は母親と過ごし、隔週の週末は父親と過ごす」というようなパターンが多かったです。でも元妻が提示した合意書では、そのチャンスさえも与えられていなかった。そこからの交渉は大変でしたね。1時間250ドル、合計で2~3万ドルの弁護士費用をかけて、2年間話し合いを続けました。

 

── 当時のレートでも日本円で300万円以上ですよね。この額はアメリカでは一般的なのでしょうか?

 

Ryoさん:僕たちは法廷闘争せずこの額で済んだので、離婚にかかる弁護士費用としては安いほうです。「子育ては均等にしたい」と僕が主張して、結局50:50(半分半分)の親権を勝ち取ることで合意しました。

 

── 50:50の親権とはどのようなかたちで?

 

Ryoさん:子どもたちは父親の家と母親の家を1週間ごとに行き来します。僕は別居直後、住む場所もなくて友人宅に居候させてもらうような、一時的にホームレスみたいな状態でしたが、新しい仕事を見つけてからは、元妻と相談のうえ、彼女と同じアパート(日本でいうマンション)の違う階に部屋を見つけて再入居しました。子どもたちは両親の離婚で十分すぎるほど傷ついているのに、そのうえ両親の家の間を長距離移動してストレスを与えるのは、どうしても避けたかったのです。