かつての反省から…仕事も母親も「30点」で合格

── 事業が軌道に乗り、各地から講演の依頼を受けるほどの経営者の坪内さんですが、「仕事30点、母親30点、自分30点、遊び(余白)10点」という考えを持っているそうですね。そう考えるきっかけは何でしたか?
坪内さん:私がまだこの事業を始める前、23歳のときのことです。20歳で結婚したのですが、性格が合わず離婚。1歳半の長男を自転車に乗せ、引っ越しのために朝から晩まで何往復もしていたら、息子が熱中症になってしまって。ご飯は食べさせていましたが、水分補給をすっかり忘れていたんです。引っ越し作業をやりきることに集中しすぎて、子どものことが抜け落ちてしまった。
そのとき思ったんです。「私は全部に100の力を注ごうとしているけれど、そもそも自分のキャパは100しかない。何かに全力を注いだら、別の何かが0になってしまう」と。それからは「仕事30点、母親30点、自分30点、遊び10点」でバランスを取ろうと思うようになりました。
── 「30点」とは、具体的にどんな状態をイメージしていますか?
坪内さん:たとえば自分で料理を作って「これ何点?」って聞かれたときに、「まぁ30点ならつけてもいいかな」って思えるくらいのレベルです。完璧じゃないし自信満々でもないけど、最低限はやったかなっていう、そのくらいの感覚です。
── ドラマのモデルにまでなった経営者の坪内さんが、そうした考えを持っているのは驚きでした。
坪内さん:私は自分が立派だなんて微塵も思っていなくて、人としても母親としてもダメな人間だと常に思っています。仕事においても、「日本の漁業を何が何でもひっくり返してやって、あいつらを負かしてやるぜ!」なんて思ったことはないんです。ただ、「今日、これだけは頑張れる」ということをコツコツとやらせてもらっているという考え方ですね。
──「30点主義」を持つことで、子育てにはどのようないい影響がありましたか。
坪内さん:自分を許せると、だぶん子どものことも許せるようになると思うんです。家に帰ったとき、子どもに「宿題のこと、言ったほうがいいかな」と思うこともあるんですけど、結局「まぁいっか。自分でできるか」となります。自分に100点を求めないので、子どもにも余計な口を出さずに「Let it go」する(手放す)ことができると思うんです。
── 上のお子さんは18歳になられたそうですが、シングルマザーとしてこれまで「これだけは譲らなかった」ということはありますか?
坪内さん:息子にとって大事そうだと思ったことは外さないようにしていました。私がシングルでほかの人に子育てを頼らざるを得なかったこともあって、基本うちの子どもたちもほかの人に頼めるときは頼んじゃうんです。そんななかでも「お母さんじゃなきゃ」と言うときはよっぽどの事情があると思います。「このやり方がわかんない」「これを作ってほしい」みたいに求めてきたときには全力で応えることをしてきました。
いま高校生の長男とは月に1度くらいしか顔を合わせませんが、この間も長男が東京に用事があったときに、「朝寝坊しちゃったんだけど、どうしよう」と連絡が来ました。「飛行機に乗るのがいいかな、新幹線に乗るのがいいかな」って。そうやって求められたときには惜しまず、的確に対応しようと決めています。
── 信頼されていると感じます。
坪内さん:「ごはん行こっか」と誘っても「友達と行くからバイバイ」って返されるくらい、いい距離感で育ってくれています(笑)。そんな感じでも、中学の卒業式では「いつも助けてくれてありがとう」「尊敬しています」と言われました。息子はグレることもなく、やりたいことをまっすぐ探していろいろ挑戦しています。
私が自分の仕事に全力で向き合っているように、彼も自分の人生を自分で切り拓いてくれているようで、最近は水産系の研究や論文発表なども経験しています。私から「あれをしろ」「これをしろ」と言ったわけではないのですが、本人的には漁業が身近なのは当たり前なんでしょうね。
取材・文:石野志帆 写真:株式会社GHIBLI