「自分で考えて話す」仕事に大きな意味を感じた
── 学生時代は、モデルをはじめタレントや俳優としても多くのCMや映画などに出演されました。現在は講演活動、またミュージシャンとしてもご活躍されていますが、何か転機になったことはありますか?
矢野さん:大学時代、縁があってモデルの仕事を始めてから、ラッキーなことが続いて。テレビに出演したり、俳優として映画やミュージカルに出演する機会に恵まれました。収入も増え、つい調子にのってしまった時期もあったんですけど(笑)。求められるポーズを取ったり、台本どおりにただしゃべったりすることに大きな違和感が出てきて、「本当にこのままでいいのかな」と次第に迷うようになりました。ありがたいことに就職のお誘いもいただいたのですが、そんなとき、たまたま人前で、自分のルーツについて台本なしで話す機会があったんです。

そのとき、すごくしっくりきて。「台本に従うんじゃなく、自分で考えて話す活動のほうが自分に合っているし、大きな学びや意味があるんじゃないか」と思うようになりました。その活動を通して人がつながっていく体験もできて、「自分も作られる側ではなくて、“創る側”になりたい」と思っていたんです。そうしたら、そんな僕の気持ちが伝播したのか、僕の話が口コミで少しずつ広がっていったみたいで。この10数年は講演の仕事で全国各地を飛び回る生活です。
6歳で日本に来てから肌の色が違うことで差別を受けてきた自分が、いま、社会に貢献する活動をする人間として応援してもらえている。そのきっかけとなった講演活動が自分にとって大きな転機になっていると感じます。本当にありがたいです。
取材・文/高梨真紀 写真提供/矢野デイビット