JR両国駅に突如『巨大力士』が現れ、電車を素手で止めて猫を救う──。この光景を収めた動画がSNSで1000万再生を超え、「どういう仕組み?」「実際に見てみたい」と大きな話題に。
11月8日から14日のわずか1週間だけ出現したPlayStation 5の屋外広告『魔人力士、降臨。』は、どのように生まれたのか。株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以降SIE)の担当者と、広告制作を担当した(株)電通・(株)アタリチームに話を聞きました。
話題の舞台は両国駅の「幻のホーム」だった

── 両国駅のホームに巨大モニターを設置し、電車の入線に合わせて「巨大魔神力士」が登場する。そんなユニークな屋外広告がSNSを中心に大きな反響を呼びました。まずはこの企画にはどんなねらいがあったのでしょうか?
SIE担当者: PlayStationシリーズの最新機種PlayStation 5(PS5)のブランドキャンペーンとして展開しました。『It Happens on PS5 ありえないことも、PS5なら。』をキャッチコピーとし、「現実では起こりえないようなことも、PS5なら体験できる」ということを、クリエイティブを通じて表現しております。グローバルで行われているキャンペーンで、各地域で独自の特別なOOH(屋外広告)企画を実施しました。日本では両国駅で実施した本施策がそれにあたります。
── なぜ両国駅だったのでしょうか?
電通・アタリチーム:『It Happens on PS5』というグローバルなキャンペーンの日本版をつくるにあたり、まず「日本らしい表現とは何か」を徹底的に考えるところから始めました。さまざまな案を出す中で、「相撲の聖地・両国駅にある、いまは通常使用されていない3番線ホームを活用できるのでないか」という案があり、まずは場所を確定させました。

── 両国駅に使われていないホームがあるんですね。
電通・アタリチーム:3番線は「幻のホーム」となってからもイベントスペースとして活用されることがあり、巨大なLEDパネルは構造的にも技術的にも導入可能な環境でした。JR東日本様をはじめ、関係者のみなさまが企画意図を理解したうえで安全面や運用面を踏まえつつ、前向きにご協力くださったことで実現できたと思っております。
──「力士を登場させよう」という発想はすぐに出てきたのでしょうか。
電通・アタリチーム:「両国駅を使った日本らしさ」と「PS5なら『ありえないこと』が起きる」というメッセージを掛け合わせたとき、巨大な力士が駅に現れるというアイデアが自然と浮かび上がりました。
── ホーム上にはモニターに映し出される巨大力士だけでなく、さまざまなしかけもあったそうですね。

電通・アタリチーム:もともとホームには、浮世絵や両国駅独自の駅名標が設置されていたので、馴染ませるために巨大ディスプレイに映し出される映像にも同様のものを描きました。ちょっとしたこだわりとして、駅名標は「PlayStation駅」となっています。
── 広告は、具体的にどんな演出がされたのでしょうか?
電通・アタリチーム:営業用に通常運行されている向かい側のホームに電車が入線する際、モニター内の『魔人力士』が、ホームにいる方へ向けて「下がって!下がって!」と言わんばかりに張り手を繰り出します。また、入線した車両の中にいる旅客に向けてじゃんけんを挑むなど、力士らしくありながらもユーモラスな映像も展開しました。2番線・3番線のどちらにも車両がいない場合も楽しんでいただけるよう、キョロキョロと周囲を見回したり、ホームにいる方をのぞきこんだりする演出もありました。
── なかでも最も話題を集めたのが、1日に1回しか見られない『レア演出』でした。
電通・アタリチーム:3番ホームには平日17時35分ごろ、1日に1度だけお客様を乗せない電車が入線するのですが、その際「入り込んでしまった猫を守るために、巨大魔人力士が両手で電車を止める」という動きを見せました。電車を「止めた」後、力士は猫を優しく撫で、画面の外へと姿を消していく、という演出です。
── 車体に引けを取らない大きさの力士が、力業で電車を止めているような演出は没入感があります。
電通・アタリチーム:スマホをのぞけばなんでも見られてしまう時代だからこそ、スマホを使わずに現実世界で「PlayStation 5らしいありえない世界」を作りだそうと思っていました。そうした体験ができる空間作りができれば、多くの人の心を動かして話題になるはずだというねらいがあったため、特にこの演出には力を入れて制作していきました。