理想の父親像や子育てモデルは作らなくていい

── ご自身が子ども時代にひとりぼっちで寂しい思いをしていたという話がありましたが、描いている理想の父親像などはありますか?
ユージさん:ないんです。僕の母がわりと僕に対して理想のいい子像を描いていたことに困惑していたせいもありますが、自分の子どもには、将来こうなってほしいという親の考えを押しつけたくない気持ちがあって。
僕と妻が子どもたちに向き合った結果が、大人になった彼ら、彼女たちなんだろうなと思うんです。もし子どもたちが何か悪いことをしてしまったら、それは子どものせいじゃなくて親の責任じゃないかなと。その場合は親が関わり方を反省すればいいし。なので、決めたことを守るんじゃなくて、一日一日を大切に過ごして「楽しい」「幸せ」という気持ちになってもらえたらいいなと思っています。親の背中を見せる、じゃないですけど、僕の姿を通して、人にやさしくしようとか、困っている人を見たら助けようと思ってもらえるような親でありたいです。
── ご自身の子ども時代の経験や思いが、子育てに反映されている部分はありますか?
ユージさん:それは間違いないですね。父親がいない状態で育ったので、正直、理想の父親像がわからないし、ダメなお父さんが何かも知らないんです。だから自分で父親像のロールモデルを探りながらつくっていっている面もあります。
── 子ども時代は、シングルマザーとして必死に働くお母さんに甘えることができない環境で確執があったそうですが、自分も親となったいまとなっては気持ちがわかるとか、もっとこうしてほしかったとか思うことはありますか?
ユージさん:父親がいなくても立派な子に育てなくちゃ、とお金を稼ぐことが優先だった母の気持ちもわかりますし感謝もしていますが、もっとこうしてほしかったという部分のほうが多いかもしれないですね。そこは申し訳ないけれども反面教師というか、寂しかった僕と同じ気持ちを味わわせないようにしようという思いはあります。でも、たまに子どもに「これを言ったらダメだな」ということを言ってしまうこともあるんですよね。
たとえば子どもが「学校でいやなことがあった」と言ってきたときに「それって相手の子が悪いのかな?あなたが先に何かいやなこと言ったんじゃないの?」と言ってしまうようなことです。
そんな言葉が出てくるのは、自分の子どもを信じていないことになりますよね。僕もそうだったのですが、子どもが「学校でいやなことがあった」と言ってくるときって、その原因と対策を根ほり葉ほり聞いてほしいわけじゃなくて、ただ吐き出したいというか、聞いてほしいのがメインだと思うんです。だから親としては「そっかそっか、大変だったね」「おいしいものでも食べようか」という返し方でいいんですよね。冷静に分析して問題解決してほしいわけではないんです。
── 子育て中の母として、わが身を振り返ってしまいます…。たしかにあなたのほうが悪いんじゃない?と言われると、信用されていないように感じますよね、子どもは。
ユージさん:親だから、誰かに迷惑かけていたら申し訳ないと思う気持ちもわかりますよ。子どもが友達にたたかれたと言ってきたとして、理由をよく聞くと、自分の子が言った余計なひと言が原因だとわかったら「それはたたかれても仕方ないよ」と言いたくなる。もちろん、自分の子が悪いときは注意しなくちゃいけないこともあるんですけど、ほとんどの場合は寄り添ってあげるだけでいい気がするんですよね。「それはいやだったね」「あなたは、されたらいやなことしないようにしてね」というような言葉をかけるだけでいいんじゃないでしょうか。自分の子を信じてあげてほしいです。
取材・文/富田夏子 写真提供/ユージ