マタギは余計な殺生をしたくない
── 駆除するのは、マタギの方々にとってもつらい選択ですよね。
蛯原さん:そうなんです。クマだけでなくサルやイノシシなども人の住む場所にたくさん現れます。放っておくと畑も荒らされるし、危険だから駆除せざるを得ません。でも、マタギだって街に出た野生動物を何も利用せずに、ただ駆除するのは本意ではありません。自然への畏怖の念を忘れず、自然とともに生きるのがマタギです。本当はよけいな殺生はしたくないし、恵みを与えてくれる山から、必要なぶんだけ狩らせていただくのが、本来の姿です。
── 「自然とともに生きる」というのは、人間の本来の姿のように感じます。
蛯原さん:最近はだいぶ簡略化されてきてはいますが、山でクマを仕留めたら、儀式を行うんです。神さまに対して獲物をいただいたことへの感謝の祈りを捧げます。命は決してムダにしません。山で獲ったクマは、その場で解体し、肉は狩りに参加した人の数だけ均等に測り、持ち帰ります。肉はきちんと食べるし、昔は毛皮を敷物や手袋にするなど、すべてを活用していました。