各地の人里へクマが出没するニュースが連日のように報じられています。山形県小国町でもその影響は深刻で、町の中心部にまで姿を現すように。町役場に勤務しながらマタギとして活動する蛯原紘子さん(40)は、クマとの共生について知ってほしいことがあると言います。
クマが市街地に現れてしまう恐ろしい理由
── 蛯原さんは山形県小国町役場に勤務しながら、クマなどを狩るマタギとしても活動されています。最近は人が住む町中にもクマが多数出現しています。マタギから見て、こうした状況をどのように感じていますか?
蛯原さん:私のまわりでも「家の近くでクマを見かけた」という話をよく耳にします。クマは本来、臆病な性格で人を恐れる生き物です。それがこんなに人里に現れるというのは、異常な状況だと思います。今年の夏の猛暑の影響がとても大きかったようです。雨が降らなかったので、どんぐりの実をはじめとした、クマのエサになるものがほとんど実っていないようです。
これまでも山の実りが悪い年はありました。それでもなんとかクマたちが食べられるだけのぶんはあったんです。でも今年に限っては桁違いの不作で…。例年とあきらかに違うのは、体の大きな強いオスも町中に下りてきていること。今年、駆除されたクマを見ると、100キロくらいのけっこう大きい個体が多いです。
これまでであれば、不作の年は強いオスが山の中のわずかな食べ物を独り占めしていました。山を下りてきていたのは、勝ち目のない弱い個体や親子連れだったんです。今年のように大きな個体のクマまでが現れているとなると、個体の大きさに関係なく町に出てきていて、「山にクマがいない」状態という可能性もありそうです。

── クマにとっても深刻な状況ですね。
蛯原さん:そうなんです。とはいえ「かわいそうだから駆除しない」というのは非常に危険です。全国で、すでに悲しい事故も起きています。一度、畑や果樹へ来たクマは「ここに来たら食べ物がある」と、覚えてしまうんです。とくに親子のクマだと、子どもが「ここがエサ場だ。山の食べ物よりもこっちのほうがおいしい」と学習します。子どもを駆除せず見逃すと、成長したときにエサを求めて簡単に山から出てきてしまいます。
人間とクマの住む場所はきちんと線引きをしなければ共存できません。人の住む場所に現れ、人を恐れなくなったクマは、結局は駆除せざるを得なくなります。それは、クマのためにも、人のためにも悲しいことです。長年、クマと人の間で保たれていた力関係が崩れている気がします。