「タケノコは儲からない」5年かけて定説を覆した
風岡さんの実家はおじいさんの代から続くタケノコ農家。トライアスロン、昆虫を経て、家業に情熱を注ぐようになったのですが、タケノコには商売の難しさがありました。
「タケノコは毎年変わらず生えてくるとは限りません。『表年』『裏年』と呼ばれるサイクルがあり、不作の『裏年』にあたると、通常の半分以下しか出てこないんです。うちでは『タケノコは裏年があるから商売にならない』とタケノコの栽培をあきらめ、広大な竹林を放置し自然任せにしていました」
タケノコの栽培をあきらめたのは他の生産者も同様。風岡さんの暮らす地域はタケノコがいちばん有名な農作物でした。その土地特有の赤土で育つタケノコはえぐみが少なく、味がいいと評判だったそうです。しかし、農家の高齢化により作り手が年々減っていき、後継者もいない。必然的に継続困難な状況を迎えます。
「どうしたら裏年の問題を解決できるのか。また、昔のようにタケノコの生産地として栄えるにはどうすればいいのか。それまで逆境を自分なりに乗り越えてきた自負があり、絶対に方法はあると信じて、打開策を思案しつつ、踏み出したんです」
風岡さんは、まずは荒れていた竹林の整備から始めます。といっても約5000坪の広さゆえ、体力を要する作業です。古い竹を伐採して日当たりをよくしたり、草取りや肥料をやるなど手入れに気を配ったりして、新しいタケノコが生えやすい環境作りに専念。
「タケノコ農家の多くは自然任せですけど、何もしないと裏年に収穫量が減ってしまう。そこで手間を惜しまず、日々の管理を徹底したんです。年間300日以上入り、5年の月日を費やしたのち、毎年、安定したタケノコの生産を実現しました」

加えて、高級品として扱われる「白いタケノコ(白子タケノコ)」の量産にも成功。100本に1本しか生えないとされる希少性の高い代物です。
「販売のしかたについては、直売所を設けて売ることにこだわりました。タケノコは鮮度が落ちるのが非常に早い。だから、獲ってからすぐ提供したいと思ったんです。遠方からの注文にはクール宅急便を使ってすぐ送るようにしました」
こうした体制のもと、風岡さんが育てたタケノコは口コミで評判となり、シーズン中には直売所に人が押し寄せるほどの人気に。白子タケノコには全国各地から注文が入り、ミシュランの星を獲得する高級料亭などにも納めるようになったといいます。
「当時さらに知名度を上げるべく考えたのが『タケノコを1億円掘った男』というキャッチフレーズ。いつのまにか『タケノコで1億円稼いだ男』と変換されてしまいましたけどね(笑)」
このキャッチフレーズをきっかけにビジネストレンド誌の『日経MJ』が取材に訪れ、「タケノコ王」と命名。その記事を見て全国放送のテレビ局が取材に来て、テレビ出演へとつながったそうです。
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タケノコ王・風岡直宏さんは家業のタケノコ農家を継ぎ、試行錯誤しながら生産性の向上と希少な品種の大量生産に成功。また、ド派手なピンクの作業服姿とパワフルな行動からバラエティ番組で人気を博しますが、メディアに出たのはタケノコ農家や地域の実情を伝えたかったからだそうです。
取材・文/百瀬康司 写真提供/風岡直宏