静養中は老化すら愛おしく感じられるように

池田一葉

── 手術自体はどんなものでしたか?

 

池田さん:幸いにも腫瘍は、「見つかったのはすごくラッキーだったよ」と先生に言われるくらい小さなものでした。片方だけの腫瘍だったんですが、もう片方にできるリスクもあるということで、両方の乳房を全摘出したんです。日本ではなかなか難しいそうなのですが、摘出と同時に両方にインプラントを入れる再建手術もしました。

 

── 全摘の手術を受けたけれども、同時に再建もされたので、手術後も胸の形は残っていたんですね。

 

池田さん:そうなんです。術後の痛みはありましたが、豊胸手術と同じものなので「ダウンタイムが終わるのを待つ」のと同じ感覚で、回復はとても速かったです。抗がん剤や放射線治療も必要のない、極めて初期のものだったことも大きかったと思います。

 

── 手術のあとは、どのように過ごされていたのでしょうか?

 

池田さん:手術をして飛行機に乗れるぐらいまで落ち着いてから、家族がいるアメリカのアトランタに帰ってずっと静養していました。これは偶然だったんですが、実はがんが見つかる前に休職を申請していたんです。それまで世界中を家族で回っていましたが、息子の教育を考えて一度落ち着いたところで生活をしてみようと夫と話し合ってのことでした。

 

── 静養中はどんなことを考えましたか?

 

池田さん:がんになったことで、しがらみのようなものが一気に吹っ飛びました。「もしかしたら死ぬかもしれない」と思った瞬間、本当に大事なものしか残らなくなったんです。それまでは顔に増えたしわを見て、「おばちゃんになってきたな」と焦ることもあって、いわゆるミッドライフクライシスにいました。仕事に関しても「若いときみたいに頑張れないし、この先下り坂しかないのではないか」と思うこともあって。でも、そういう悩みが全部くだらなく思えるようになりました。老化も下り坂も、生きているからこそ経験できることで、むしろそれすら愛おしく感じるようになりましたね。