怪しい魚が入った鍋料理を出された彼女は…

── 奥さんの反応はどうでしたか?

 

清人さん:帰省したら親父が近所の無職仲間と鍋を振る舞ってくれたんですけど、家の中でも外と変わらないくらい、足の裏が真っ黒になるような汚れた床で。その部屋にこたつがポンと置かれているんですけど、こたつ布団の代わりに海で拾った空気が抜けたゴムボートがかけられていたんです。「ゴムボートは保温性が高くてあったかい」なんて言って。危険だから絶対に真似しちゃダメですよ。

 

そこで初めて会った「きよしさん」というおっちゃんが魚をさばいて鍋に入れてくれるんですけど、魚を置くまな板はボロボロだし、包丁もサビだらけで、よく見たら手の爪も真っ黒で…。魚も深海魚みたいな見たことないグロテスクな姿していて、それを白湯みたいな汁に入れるだけなんです。でも彼女は率先して食べて「うまい」と嘘でも言ってくれたので、あ、この人と結婚しても大丈夫だ、と思いました。あとで僕の同級生も来たのですが、部屋の状況や鍋の魚を見てドン引きして「お腹いっぱいだから」と食べませんでしたよ。

 

── すごい通過儀礼を経て…無事に結婚され、いまはお子さんが2人いらっしゃるんですね。父親になって子育てをしてみて、いかがですか?

 

清人さん:娘と息子がいて、いま中3と中2です。子どもに対しては、怒ることがないですね。もちろん、社会的に絶対にしてはいけないことをしたら怒りますけど、しつけで怒ったことがないし、怒るタイミングもわからない。自分自身は母がいなくて目が不自由なばあちゃんをサポートして暮らしていたし、酔っぱらったら暴れるおじが同居していたし。なかなか過酷な子ども時代を過ごしたので、ちょっとしたことなら「怒るほどでもないな」と思ってしまうことが多いんですよね。だから父としての威厳はあまりないかもしれません。ただ、小さいころからできるだけ一緒に遊ぶようにはしていますし、地元の福岡でご近所さんに助けられて育ったので、パパ友、ママ友含めてご近所づき合いも大切にしています。

 

── どんな家庭を築きたいという理想はあったのですか?

 

清人さん:楽しい、笑える家庭にしたいと思っていました。僕がボケたら奥さんや子どもがツッコミを入れてくれるような。おかげで娘は「つき合うならおもしろい人じゃないと無理」と言うようになりました(笑)。僕のことを知ってくれている学校の先生もいて、この間は娘の学校の副校長が僕の講演会に来てくれました。幼少期から目が不自由なばあちゃんの手伝い、お世話をしてきたので、ヤングケアラーがテーマの講演依頼があるんです。「先生がパパの話してたよ」と言う娘は、ちょっとうれしそうでした。