学校がしんどいときに思い出す母の故郷

── 多感な時期に異文化のなかで過ごした時間は、その後の人生にどんな影響を与えたのでしょう?

 

加藤さん:日本とはまったく違う文化や価値観に触れたことで視野が広がって、「いまいる場所が世界のすべてじゃない」と、身をもって知ることができました。それが、私にとって大きな糧になりましたね。

 

じつは10代のとき、学校に行くのが少ししんどくなってしまった時期があったんです。思春期によくある、女の子同士の人間関係に疲れてしまって。相手に気をつかいすぎたり、空気を読むことを求められる雰囲気に息苦しさを覚えることもあったり、学校があまり楽しくないと感じていたんです。

 

そんなとき、ポーランドで過ごした日々が頭に浮かびました。言葉も文化も違う場所でしたが、思ったことをストレートに伝え合える気楽さがありました。実際ポーランドにすぐに戻るわけではなくても、「もしも苦しくなったら、あっちに戻ればいいんだ」と思えるだけで、心が軽くなったんです。

 

──「自分の居場所はここだけ」と思うと苦しいけれど、別の選択肢があると知っているだけで、気持ちが救われますね。

 

加藤さん:まさしくそうでしたね。同じ場所で、同じ人たちと会って、そのルールのなかでずっと過ごしていると、そこが自分のすべてだと思い込んでしまう。とくに学校という閉じられた世界にいると、そこでの評価や人間関係が自分のすべてを決めるような気持ちになってしまいます。

 

でも、世の中にはいろんな価値観があって、場所が変われば、常識や正しさも違ってきます。たとえば、日本で美徳とされる遠慮や謙遜も、別の文化では、その繊細さがネガティブに受け止められることもある。どちらが良い悪いではなく、自分の個性にあった場所があるということなんです。

 

いまいる場所で行き詰まっても、違う場所に行けば、自分にとって心地よい環境で新しい挑戦ができるかもしれない。だから、肩の力を抜いて大丈夫。そう思えることで、いまいる環境でも少し余裕を持って過ごせるようになると思うんです。

子どもにとって「異国の体験」が大事なわけ

── お子さんたちを連れてポーランドに行かれたこともあったそうですね。母として、その体験を伝えたい思いがあるのでしょうか。

 

加藤さん:私自身、親から「こうしなさい」と教えられたわけではなく、環境のなかで自分なりに感じ取ったことが、大きな財産になっています。だから子どもたちにも、違う文化や価値観に触れることで、世の中にはいろんな考え方があることを知ってほしいと思っているんです。

 

加藤シルビア
0歳、4歳、6歳の三姉妹と長男8歳の4人きょうだいと賑やかな加藤家

なので、夏休みには金銭的な状況が許せばできるだけポーランドに連れて行って、文化の違う環境に触れさせるようにしています。まだ言葉が通じない幼い子どもたちは、ノンバーバルなやりとりを通じて、自分で考えながら動くしかありません。そうした環境のなかでサバイバル力や対人スキルも身についていけばいいなと。本人たちが嫌がらないうちは、「かわいい子には旅をさせよ」を実践するのが我が家のスタイルです。

 

取材・文/西尾英子 撮影/内田紘倫 写真提供/加藤シルビア