子どもが身につけてほしいたったひとつのこと
── 4人のお子さんを育てるなかで、教育について意識していることはありますか?
加藤さん:AIが登場し、科学技術が進化するなかで「本当にいちばん大切なものって何だろう」と考えると、最終的に行きつくのは、既存の知識や常識に頼るのではなく、自分の頭で順序だてて考える力、つまり、論理的思考力だと思うんです。1から2、2から3と、思考のステップさえわかっていれば、そこから先は自分で身につけていける。必要なスキルは後からでも習得できますし、興味のあることに出会えれば、自分で目的に向かって進んでいけると思っています。ただ、その力をどう育てればいいのか、まだ試行錯誤中です。
子どもが自分なりに考えようとしている過程を、つい大人の目線で完成形と照らし合わせて見てしまう。どこまで考えられるのか、どこでつまずくのか、その見極めが難しくて。年齢や発達に応じた思考力がどれくらいなのか、判断がつかないんです。だから、「自分で考えなさい」と声をかけながら、子どもが考えやすいように、声のかけ方ややり方を少し変えながら、今は見守っているところです。

── TBSを離れ、4人の子育てに軸足を置く生活へと変わりました。心境の変化はありますか?
加藤さん:子どもに囲まれ、成長を間近で見られるのはすごく楽しいです。そのいっぽうで、社会とのつながりが薄くなった寂しさもあります。子どもとだけしか話さない日々が続くと、社会から遮断されたような気持ちになることもあって。だから、夫の帰りが遅い日は大人の会話ができる相手がいなくて、少し煮詰まってしまうこともあります。また、会社員時代は通勤中や昼休みなど、ひとりになれる時間がありましたが、いまはそうした時間もほとんどありません。
ずっと家庭と仕事の両立で悩み、「辞めたら悩みは消えるのかな」と思っていたんです。たしかに子どもとの時間は増えました。でも同時に、子どもの教育費や生活費などの金銭的なことも気にかかりますし、私はやっぱり仕事が好きで、ワークライフバランスが必要なタイプなんだと気づきました。そのバランスに正解はなく、そのときどきで変わっていくもの。だからこそ、「自分がしたいこと」や「するべきこと」を、そのつど、しっかり見つめて選んでいきたいと思っています。
…
今は「子どもが元気で生きていれば合格」というシンプルな子育てルールにたどり着き、4人の育児に奮闘しながら、自分らしい働き方を模索中の加藤シルビアさん。そんな加藤さんの価値観の原点は、13歳のときに母の出身地・ポーランドで過ごした1年が影響しているようです。世の中にはいろいろな考えがあることを知ってほしいと思い、加藤さん自身も夏休みなどにはお子さんたちをポーランドに連れて行っているそうです。
取材・文/西尾英子 撮影/内田紘倫 写真提供/加藤シルビア