夫婦で再訪したいスペイン版の「お遍路さん」

アキナ・山名文和
寝かしつけも楽しそうな山名さん

── そんな素敵なおふたりですが、夫婦ではどんなことを話したりしますか?

 

宇都宮さん:つき合ってから結婚や出産が早かったので、ふたりでまだ思いっきり遊びに行ってないんですよ。コロナ禍だったこともあり、結婚式も新婚旅行もしていません。なので、子どもの手が離れたらふたりで元気なうちにいろいろ、海外にも行きたいねと話しています。

 

特に行きたいのは、スペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」です。日本でいうところの四国のお遍路さんみたいなところで、キリスト教の聖地であるスペイン、ガリシア州のサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指して歩く旅です。実は、私は結婚する前に歩いたことがあるんですが、本当によかった!

 

── スペイン版のお遍路さんを歩いたとは、なかなか珍しいご経験ですね。宇都宮さんが歩くことになったきっかけを教えてください。

 

宇都宮さん:テレビ番組の企画で訪れました。番組関係者の方が「サンティアゴの巡礼に行く子を探してるけど、どう?」って声をかけてくださって、そこからご縁があり行かせてもらいました。実は、歩くことは苦手で、まともに長距離を歩いたことがなかったんです。でも、歩いてみると、めちゃくちゃ素晴らしい道のりで!歩くことに没頭し、数回に分けて渡航して、延べ4週間くらいかけて歩きました。

 

巡礼路沿いはひたすら見るものが新鮮でしたね。昔から変わらない自然の景色や人々の歴史を感じる建物など、とにかく歩いてもずっと飽きないくらい。お墓も、日本のお墓とはまた違いますし、動物が普通に歩いていたり、見たことのない楽器を演奏している人がいたり。その人も巡礼者なんですけど、音色がすごく心に響いてきて…。巡り合うすべてのものが印象的でした。

 

巡礼の道なので、世界中から集まってきた人たちが、みなさん何らかの信念や思いを持って歩いていらっしゃる。巡礼者は巡礼の証として、「巡礼中である」ということを周りに示すべくヨーロッパホタテガイや水筒代わりのひょうたんを身に着けて歩くので、「あの人も巡礼で歩いている人だ」と、すぐにわかるんです。菅笠(すげがさ)や金剛杖(こんごうつえ)をついた姿で廻る日本のお遍路さんとも似ていますよね。

旅はその後の子育てや夫婦円満のヒントにも

宇都宮まき、アキナ・山名文和
家族4人でおでかけ

── お遍路さんもそうですが、ひたすら歩くことで、日常とはかけ離れた貴重な体験ができそうです。

 

宇都宮さん:巡礼の旅は「本来の人間の正しい暮らし」を知る、日本での生活習慣をデトックスするような日々でした。携帯はいっさい見ないで、まさにデジタルデトックスができる環境で歩くわけです。それまでずっと夜型人間だったのですが、「朝日が昇って起きて、陽が暮れると寝る」ということが人間の正しい生活リズムなんだなと体感しました。田舎道にはトイレがなく、仕方なく山道で用をたすこともありましたけど、すべてがいい経験でした。昔の人は時計がなくてもお昼にはお腹が空いて食事をしていたわけで、なんかそういうバイオリズムのようなものがリセットできた気がします。

 

── 心も体もリセットすることは大切ですよね。

 

宇都宮さん:歩き疲れて休憩していたりすると、巡礼仲間が声をかけくれて、それで私も「ちょっと脚が痛いんだけど日が暮れるまでは歩こうと思うの」とか言って、お互い励まし合ったこともあります。「あなた日本人?大きな地震あったけど大丈夫なの?」と、優しいお声がけをしてもらったのもうれしかったです。

 

自分もしんどいのに人を心配してくれたり、何の駆け引きもなく、お互いを思い合うという人として素の心の交流が持てたところもよかった。そういう心のきれいな方々と触れ合ううちに、私も自然と人を思いやれる気持ちを持てるようになったと思います。この経験は今の子育てや夫婦関係のいいヒントにもなってくれている気がします。

 

── 宇都宮さんにとっては生き方にも影響を与えてくれた場所なんですね。そんな特別な地に今度はご夫婦で再訪できたら感慨深いですね。

 

宇都宮さん:はい。またぜひ再訪したいですね。まだ子育て真っ最中で想像できませんが、子どもの手が離れたら体が動くうちは、ふたりでいろんなところに出かけたいです。そして老後は、田舎でゆっくり縁側に座って、ニコニコ笑いながら1日じゅうお茶する暮らしができたら理想ですね。


取材・文/加藤文惠 写真提供/宇都宮まき