お化けと「友好を目指す」お化け屋敷も登場!
── マイケルティーさんの作るお化け屋敷には、社会や人間への問いかけを感じることがあります。
マイケルティーさん:お化け屋敷で社会課題を扱うこともあります。2023年には京王電鉄株式会社の依頼で、京王あそびの森HUGHUG閉館後の時間帯に、多様性をテーマにしたお化け屋敷「ハグハグ・ストレンジャーズ」を作りました。登場したのは、車椅子の花嫁、女性の花婿、かわいくなりたい男性、ヒーローに憧れる難病の少年、子どもと仲よくなりたい邪神など、これまでにないお化けのキャラクターを設定しました。

来場者のミッションは「見た目にとらわれず、これらのストレンジャーズとコミュニケーションを図り、共鳴・友好率を上げ、共存を目指すこと」。これまでお化け屋敷に入ったことがなかった人たちからも、感動の声をいただきました。
これはSDGsを取り入れたお化け屋敷なので特殊な設定ではありますが、ふだんから私が作るお化け屋敷も怨恨や殺人など人の不幸はテーマにしません。それらは実際の社会で起きるできごとであり、現実のほうがよほど陰惨だからです。現実と地続きだと、日常を忘れることができませんよね?私も親が入院しているときは病院系のお化け屋敷を作ることができず、1年間くらいホラーの仕事を避けていた時期があります。
──「怖ければなんでもいい」ではなく、確固たる方針を持ってプロデュースしているのですね。ストーリー設定でこころがけていることは?
マイケルティーさん:人の不幸をテーマにせず、気品や知性を感じさせるストーリーを意識しています。たとえば、人肉を食べると若返る不老不死の悲しく切ない運命や、暗い影を背負うお化けなどです。
ヴァンパイアが人気な理由は人間を襲い、相手の血を飲まなければならないという避けられない運命を背負いながら、その運命に苦悩する人間性が際立つからではないでしょうか。このような設定はファンに共感されやすいです。やみくもに殺戮を繰り返したり、怖がらせたりするのではなく、ストーリーの奥深さやキャラの人間性、テーマの社会性が心に訴えるのです。
── 魅力的なお化けの条件は暗い影や人間性、社会性。言われてみればたしかにそうです。
マイケルティーさん:裏方の話をすると、社員の採用でも人間性を重視しています。私は「好きなことを究めて職業にして楽しく働いている人」といった印象が強いらしいのですが、それだけでは務まりません。
そのため、「人間嫌いだからお化けの仕事をしたい」「社会性がないけどホラーが大好き」という応募者は採用しません。逆に「お化け屋敷が嫌い」という人を採用することが多いです。私はホラーやお化け屋敷にどっぷりはまっていて感覚がずれているので、ふつうの人の感覚は貴重なんですよ(笑)。そして、人の心を動かすお化け屋敷作りには、やはり哲学や人間性は必須だと思います。
取材・文/岡本聡子 写真提供/マイケルティー・ヤマグチ、株式会社ZAUNTED