怖すぎてリタイア続出。なのに、何度も行きたくなる。そんなお化け屋敷の仕掛け人は、かつてお化け屋敷が苦手だったマイケルティー・ヤマグチさん。手がけたお化け屋敷のリタイア率は最高74%。4日間で閉鎖を余儀なくされたこともあるそうです。(全2回中の2回)
「リタイア率が74%」に達した超恐怖なお化け屋敷
── ひとつのお化け屋敷には1回行けば十分と考えてしまいがちですが、つい何度も通ってしまうところもあります。「台場怪奇屋敷」台場一丁目商店街をはじめとする数々のお化け屋敷の企画、演出、監修、プロデュースを行うスペシャリストのマイケルティー・ヤマグチさん。何度も通うリピーターが多いのが特色ですが、どうしてでしょうか?
マイケルティーさん:私が作るお化け屋敷はディテールにこだわっているため、何回入場してもおもしろいと言われます。初めて入るときは、怖がってつい早足になったりしてしまいがちです。でも、2回目以降は細かい造作を見ることができるので楽しいようです。
物語の背景まで綿密に設定した恐怖ストーリー、背後から忍び寄る足音や耳元でささやく声など、恐怖感を増幅させる立体音響や照明、リアリティを追求した特殊メイクと特殊効果を組み合わせた仕掛け、血や薬品の匂い、ゾンビ役が入場者に触れて物語の登場人物となる没入感などが特徴。みなさん五感をフル回転させ、脳の中で恐怖を増幅させます。あるイベント出展では、会期である28日間、毎日、通ったお客さんもいます。

── 聞いているだけで臨場感が伝わってきて、怖いです…。「リアルすぎて入れない」「怖すぎて前に進めない」人もいるのではないでしょうか?
マイケルティーさん:そういう方もいますので、途中離脱用の「リタイアルート」を用意しています。これまででいちばん怖いお化け屋敷を作ったときのリタイア率は74%で、4日間で閉鎖を余儀なくされました。これは怖すぎた例ですが、通常でも2割ほどはリタイアします。でも、いろんな人に楽しんでもらいたいので、昼は子どもでも回りやすい演出にして、怖さを軽減するために懐中電灯を持ってもらうなど、配慮することもあります。いっぽう、夜はホラー好きを満足させる本当に恐ろしい演出に変えて、夜だけの部屋やルートの開放など、ハードな仕掛けを施すこともあります。
じつは私、幼少期から遊びで自宅に自分用のお化け屋敷を作っていたものの、中学2年生までは怖くて街のお化け屋敷に入れなかったんですよ。だから、お子さんがお化け屋敷を怖がる気持ちや、恐怖を感じつつ入ってみたい好奇心は重要だと考えています。私の場合は、中2で入った地元のお化け屋敷の陳腐さに驚き、もっといいものを作ろうと目覚めました。
こういう経緯があるので、「お化け屋敷が初めて」という人こそ大切にしたいですね。最近プロデュースしたお化け屋敷は大人向けが多いですが、市区町村とのコラボや地域の児童館やお寺などで開催するお化け屋敷イベントなどにはお子さんの参加も多いです。ホラーとの関わり方でいうと、お化け屋敷にはムリに入るより、お化け屋敷を運営する側やお化け役として人を驚かす立場を経験するほうが、恐怖を克服しやすいでしょう。
──これまでお化け屋敷やホラーイベントは200近く、テレビなどのお化けドッキリ番組は600近く手がけ、日本人として初めて米国でお化け屋敷をプロデュースするなど活躍の幅が広がっています。お化け屋敷のプロとして大切にしていることは?
マイケルティーさん:まずは「安全な恐怖空間」を作り上げること。基本的なことですが、誰もケガをしないように気をつけています。安全が確保されているからこそ、思いっきり楽しめるんです。そして、日常を忘れる体験を提供すること。体験前と比べて、体験後の気持ちがワンランクアップする状態を目指しています。
そして、ホラー体験がメンタルにプラスの影響を及ぼすようにと願っています。あくまで疑似体験ですが、極限まで怖い体験をすることにより、メンタルが落ちこんでいて「死にたい」と言っていた人が「生きているっていい」と、言い出すことが実際にあるんです。とくに入場者がベッドに縛られて、チェーンソーを持った仕掛け人が切ろうと近づいてくる「ベッド型」アトラクションは失神する人が出るくらい怖がる人がいて、「人生観が変わった」という声を聞きます。