独学で身につけたホラーメイク「10分でゾンビに」

── 独学で特殊メイクなどを身につけたそうですが、どのようにして学んだのですか?

 

マイケルティーさん:海外の本や資料から多くを吸収しました。もともと特殊メイクの歴史自体がまだ浅く、新しい手法や素材が続々と出現する分野なので、私自身も試行錯誤を繰り返して独自のスタイルを築いてきました。

 

特殊メイクはパティシェや歯科技工士といった、こまかい手先の技術を必要とする職種と近い部分があり、戦争での負傷をカバーする技術や遺体の損傷を修復する技術など、他分野から着想を得て発展してきたんです。でも、当時の長崎には、私の技術や思いを活かせる映画産業が存在しませんでした。そして両親からは、「長崎にいてほしい。歯科技工士か食品サンプル職人になれば」と言われていたんです。

 

── 地方におけるキャリア選択の難しいところです。

 

マイケルティーさん:両親の願いもあり、20代は長崎で過ごしました。長崎では、マイケル・ジャクソンの「スリラー」に出演していた海外ダンサーのショーのメイクを担当したり、私自身もダンサーとして舞台出演したり、経験を積みながら、お化け屋敷からイベントやショーまで、ホラーに関わるエンタメを支える力を身につけました。

 

30歳のころ、アミューズメント企業の新商品開発デザイナーの仕事で東京に滞在した際、たまたま芸能事務所にタレントとしてスカウトされ、上京しました。すぐに映画『渋谷怪談』で特殊メイクと俳優業でデビューし、同じころに代々木アニメーション学院の特別講師に招かれ、生徒たちを起用して、お化け屋敷をプロデュース。すべての仕事が「ホラー」で一貫して独自の立場を築いていたので、東京でも自然にまわりからお声がけがあり活躍の場に恵まれました。こうして、今までやってきたことが一気に開花し、長崎の親族に「やはり、あの子は東京進出すべきだった」と理解してもらえたのです。

 

マイケルティーさん考案の「ベッド型」お化け屋敷はリアルすぎて失神者が出たほど

── 映画やテレビ番組の出演者から一般人まで、大勢の方に特殊メイクをほどこし、ゾンビやモンスターに変身させていますが、こころがけていることはありますか?特殊メイクは、時間や手間がかかりますよね。

 

マイケルティーさん:まず、肌への負担を減らすことですね。とくに、肌に直接描いてメイクする場合、負担にならないよう下地などを工夫します。いっぽう、マスクのように肌をシリコン素材ですっぽり覆うタイプの特殊メイクは、いっけん肌に悪そうに見えますが、毛穴の汚れがきれいにとれたり、シリコンパックによる保湿効果が生じてそれほど負担にならないようです。

 

私の場合、メイクは1人10分ほどで完成します。映画やテレビではゾンビやモンスターは群れで襲ってくる場面が多いので、どうしても頭数が必要なため、素早く仕上げる必要があります。実際、初心者がメイクすると、1人あたり1時間ほどかかることも。私は骨格や内出血の広がり方も把握してメイクするので、真に迫ったメイクに仕上げられますし、どの角度から撮影すればよいかもアドバイスしています。

 

こうしてホラーメイクをしてゾンビになれば立場も年齢も関係なく、みな平等です。大人のみならず、たくさんの子どもさんもホラーメイクを楽しんでいます。コロナ前、幼稚園の建て替え前イベントで園児全員をゾンビに変身させて、世界最年少と思われるお化けたちが出演するお化け屋敷を作ったことがあります。私が幼稚園の先生たちに特殊メイクを教え、保護者がお客さんになりました。子どもたちはノリノリで楽しみすぎてトイレに行くことも忘れるくらいでしたね。子どもからは「変身して楽しかった」、親御さんからも「親子の思い出ができた」と、とても好評でした。