81歳になった父から突然、連絡が来て

── 20年間にわたり、お父さんと会うことはまったくなかったのですか?
フジタさん:正確には、数年に1回くらいは父から電話が来て「元気か?」くらいの会話はしていました。ただ、父が実家を売って、別の家を買ったんです。そこに内縁の妻も住んでいたので、会うことはほとんどなかったですね。
── お父さんと内縁の妻は、結婚することはなかったんですか?
フジタさん:内縁の妻は結婚したかったらしいけど、兄が大反対して結婚はしなかったみたいです。父と内縁の妻が結婚すると、戸籍上、兄は内縁の妻の子どもになるじゃないですか。それは耐えられないって。
── その後、お父さんとフジタさんが会うことはありましたか?
フジタさん:僕が40代になってから、正月だったかな。81歳になった父から突然、連絡がきて、「とにかく僕に会いたい」って言うんです。何かと思って実家に帰ると、家に父しかいませんでした。話を聞くと、Kくんは結婚して子どもができ、孫のめんどうをみるために内縁の妻は出ていったらしいんです。
父は僕に実家を譲ると言うとともに、「今までつらい思いをさせて悪かった」と初めて謝罪してくれました。
── お父さんの謝罪を聞いてどう思いましたか?
フジタさん:やっぱりうれしかったのかな。「悪気はあったんだ」ってすごく感じましたね。父は母が亡くなって内縁の妻と会うまでは優しかったし、父からよくしてもらった思い出もあるんです。父と約20年ぶりに再会すると、短い期間ですが、やっと話ができるようになりました。
…
息子と久しぶりに再会し、謝罪を伝えられたことに安堵したのか、再会後から父の認知症症状が進んでいったというフジタさん。同居介護で父を支えていきますが、フジタさんの第1子が生まれた矢先、心不全で亡くなります。1週間のうちにわが子の出産と父の他界を経験し、短期間で人生こんなことが起きるのかと感じたそうです。
取材・文/松永怜 写真提供/フジタ