どう頑張っても買ってもらえないおもちゃを絵に描いて

── 絵がとてもお上手で、絵本を手がけてもいらっしゃいますね。子どものころから漫画もよく描かれていたとか。

 

鰻和弘のイラスト作品
最近の鰻さんのイラスト作品。アルファベットを眺めているだけで楽しい!

鰻さん:おかんは優しかったんですけど、やっぱりお金がなかったので、おもちゃとか、ほしいものをおねだりしても買ってもらえなかったんです。4時間くらいゲーム機を買ってほしくて泣きわめいたこともあったんですけど、頑として買ってくれませんでした。

 

だから、子どものころはよくゲームのキャラクターの絵を描いて、自分で絵を描いた紙を動かしたりしていました。食べ物も描いてましたね。肉を食べたくなったら肉の絵を描くんです。「1回噛んでみようかな。肉の味すんのかな」とか思いながら。もちろん、実際に噛んでも紙の味しかしないんですけど。ただ、リアルに近づければいいので。キャラクターでもミニ四駆でも。どんどん模写がうまくなっていったかも。漫画は、親父が文具関係の仕事をしていたので、小学1年のころから家にあったペンで描いていました。

 

── 私も漫画を描いていた時期がありましたが、小学校高学年のころにはやめてしまいました。

 

鰻さん:小さいころに漫画や絵を描き始めても結局、辞めちゃう人が多いですよね。僕は中3まで描いていたんです。星のカービィが主人公の漫画を54冊分描いていました。絵は好きでしたね。夢が叶うというか、自分が見てみたい状況を絵で具現化できるんです。想像の世界って自由に動かせますよね。それでストレス発散じゃないですけど、子どものころは貧乏だったから、うまいこと現実逃避するという意味でも、絵を描くことに没頭できたのかなと思います。

 

── 続いているって本当にすごいことだと思います。

 

鰻さん:そうかもしれません。今も絵は仕事でも描かせてもらっています。でも、やめないだけじゃないですかね。やめると絵の成長も止まっちゃうけど、やめないと続きますから。今もやめるつもりはないですね。1回ハマったものって、だいたいやめてないんじゃないかなと思います。

 

 

貧乏だった幼少期を楽しく乗り越えた鰻さんは、高校で今の奥さんと出会い、ひと目ぼれ。26歳でつき合い始めて2015年に結婚、今年で10周年を迎えます。そんな奥さん一筋の鰻さんですが、意外にも「結婚生活についての理想はもたない」のがポリシーなのだそうです。

 

取材・文/高梨真紀 写真提供/鰻 和弘