「ベホイミのやり方でモメて」離婚なんてできない
── ケンカが離婚の危機に発展するようなことはないですか?
橋本さん:初めての離婚の危機は結婚して2年後くらいのことでした。あるとき私が家で「ドラゴンクエスト」のゲームをしていたら、後ろから夫が「バカ、そんなんで敵をやっつけられるわけないじゃないか」と口を出してきて、カチンときてしまって。私が「ベホイミ(ゲームの技)」を使って闘っていたときでした。「そんなこと言うんだったら、自分でやんなよ!」と言い返したら、夫がスーっと部屋を出ていっちゃった。しばらくしても戻ってこないので、「どうしたの?」と声をかけたら、「もうお前とやっていく自信がなくなった。そんな怒りん坊だと思わなかった」と夫が言い出して。じゃあ離婚しようか、となりました。
でも離婚するとなると、当時は記者会見を開くのが当たり前で、自分たちもそうしないといけないと思って。「離婚の理由は?」と聞かれて、「ゲームです」だったらまだ言えたのですが、「ベホイミです」は恥ずかしすぎる…という思いがわき上がり、離婚は思いとどまりました。
ケンカとは別に、「いまなら私の人生やり直せるかも」と、節目には離婚を考えてきました。私はもともと子どもが大好きで、子どもがほしいとずっと思っていたんですが、夫には「子どもは作らない」と結婚するときにはっきり言われていて。29歳のときに「このまま子どものいない人生を過ごすのか」と悩みました。
でも30歳を過ぎると「まぁいっか」と思い直して。30代半ばで「いまならまだやり直せるかも。違う人と結婚したら子どもを産めるかも」と考えたけれど、35歳になると「まぁいっか」と思って。40歳を目の前にしたときにも再び考えたけど、40歳であきらめがついて。44歳のときもまた考えたけど、45歳になるともう再婚してくれる人もいないだろうし、「まぁいっか」と思うようになりました。
── タカさんは子どもに興味はなかったのでしょうか?
橋本さん:「僕は子どもは作らないよ。なぜなら軍団の下にも弟弟子がいっぱいいて、めんどう見なきゃいけない若手の芸人がたくさんいるから」と、結婚するときにはっきり言われました。それでもいいですと結婚したけれど、夫は負い目に思ってるみたい。私が子どもを産まない人生を選ばなければいけなくなったのは俺のせいだ、なんてことを言っていましたね。
だからといって、それが私の中で離婚の理由にはなりませんでした。夫には仕事を大切にしてほしい、という気持ちがありました。仕事を大切にしない人は家庭も大切にできない、とずっと思っていたんです。外国映画で「今日は奥さんの誕生日だから早く帰ります」なんてシーンがよくあるけれど、私としては「何を言っているの、仕事しろ!」って思っちゃう(笑)。
それに私たち夫婦がケンカもしつつ、なんだかんだと平穏に暮らせているのは、子どもがいないぶん、余計ないさかいがないからなのかなとも思っていて。たとえば、この日は父親参観だって言っていたのに、なんで仕事入れるんだとか、イラッとするようなことがないわけです。子どもはいないけど、ふたりでいることも楽しいなって思えるし、それはそれで幸せでした。
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夫婦生活も長くなると、お互いの健康面が心配になってくる様子。最近、橋本さんは物忘れが激しくなり、ガダルカナル・タカさんは運転の操縦ミスをしそうになったことも。ただ、結婚生活32年となると、互いの失敗も寛容に受け止められるようになっているそう。これが、おしどり夫婦の秘けつかもしれません。
取材・文/小野寺悦子 写真提供/橋本志穂