「結婚したら家庭に入る」固定観念を裏切るひと言
── 実際、結婚していざ福岡から東京へ行くとなると、かなり覚悟がいりそうですよね。
橋本さん:仕事をやめなければいけない意識が強くあったことが、結婚へのいちばんのネックでした。アナウンサーの仕事をすごく楽しんでいたし、やりたい番組もありました。「(ある番組の)次の担当はお前だ」と上司に言われていたから、「頑張らなきゃ」とはりきっていたころだったんです。「できれば結婚はもう少し先延ばしにしたい、もう少し仕事をしたい」と夫に伝えたら、「今年じゃないんだったら、軍団10周年じゃないから結婚はいい」と言われてしまって…。
結婚をあきらめかけたとき「仕事は東京に出てきてやればいいじゃん。こっちに来ればいくらでも紹介するところあるから」と夫に言われ、驚きました。九州の男の人って、結婚したら女性は家庭に入るもの、という意識が当たり前にあって、私の周りもみんなも、実際それまでつき合った男性もそうでした。結婚しても仕事をすればいい、と言われたのは初めてでした。大学のときNHK福岡放送のアナウンサーのアシスタントに応募したのも当時、遠距離恋愛をしていた彼に見てもらいたかったから。でも、いざアシスタントに採用されて「朝のニュース番組に出るから見てね」と彼に連絡したら、「俺はそういう派手なことをする女は嫌いだ」と、振られちゃって。
夫に仕事をしてもいいと言われ、結婚して東京に行こうと心が決まりました。もしあのまま地元で九州の男性と結婚していたら、いまごろはきっと仕事をやめて、家庭に入っていたでしょう。
── 芸人の妻というと苦労が多そうなイメージがありますが、そこにとまどいはなかったですか?
橋本さん:私自身はなかったですね。それより「この先どうなるんだろう」というワクワクする気持ちだった気がします。周りは心配していたみたいですけど。いつも使うタクシーの運転手さんからも「橋本さん、そんなに男性関係で困ってたんですか?言ってくださったら、弁護士さんでもお医者さんでも、いろいろとお客さんを紹介できたのに」と、同情されてしまいました。
ただ1度だけ、すごく嫌なことがありました。結婚前に「披露宴で自分は横綱の格好をして土俵入りのパフォーマンスをするから、お前は行司の格好をして」と夫が言い出して。結婚式で白無垢を着たい、というのが私の夢でした。「横綱に行司」なんて、私の夢とは違います。母親に連絡して相談しました。「お母さん、私、白無垢が着られないみたい」と泣きついたら、「いいじゃないの。今回はそれでやって、白無垢が着たければもう1回着ればいいの。別の人と」と母に言われて。その言葉に「そうだね」と私も思ってしまい、披露宴では行司の格好をしました。それはそれで楽しかったですね。ただ、白無垢はまだ着てないけれど(笑)。
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出会いからあっという間に、結婚式までとり行った橋本志穂さん。スピード婚ゆえか、夫のガダルカナル・タカさんとは小さなことでケンカをして家出をしたり、離婚を考えたりしたこともあったそう。それでも最終的には「まあいいか」と思うことで踏みとどまり、結婚生活は32年目を迎えています。
取材・文/小野寺悦子 写真提供/橋本志穂