夫の妹が重度の脳性まひで気づかされたこと
── そうなのですね。具体的には、どういった施設になるのでしょう?
田中さん:保護した動物の里親を探す活動を中心に据えつつ、地域活性化にも貢献できる場所にしたいと思っているんです。たとえば、道の駅のようなスペースを併設し、地元の物産を販売したり、オリジナル商品を展開したりすることで、雇用創出にもつながります。地産地消をうながし、地域経済の循環を生み出すことで地域と共存する。さらに、併設するテナントの売上の一部を保護施設の運営資金に充てることで、持続可能なモデルが実現できると考えています。
多くの保護施設が資金面で苦しんでいて、安定した運営が厳しい現状があります。だからこそ、寄付に頼るのではなく、経済的に自立して運営できるような仕組みを作ることが大切だと思っているんです。それに加えて、じつはもうひとつ温めている構想があります。
── どんな構想を描いているのですか?
田中さん:障がいのある方の就労支援です。たとえば、事故で車椅子生活になった方でも、トリミングなど、上半身の動作で取得できる資格を活かして働くことができますよね。そうしたスキルを身につける支援を行い、希望する方には保護施設の業務にも関わっていただく。施設内にはギャラリーやカフェも併設して、彼らの作品を展示・販売できる場も作る予定です。自分の手で収入を得られる環境を整えることで、自立した生活が送れる手助けになればと思っているんです。
── そうした取り組みの原点には、どんな思いがあるのでしょうか?
田中さん:夫の妹は重度の脳性まひで寝たきり状態でしたが、4年前に亡くなりました。その間、私たちも障がい者施設を訪ね、講演や視察を続けるなかで、障がいを持つ方々やご家族が直面する課題をより深く理解するようになりました。動物保護、地域創生、障がい者支援…この3つを組み合わせた施設が作れないだろうか。そんな構想を長年考えてきました。
障がいのあるお子さんを持つご家族は、「自分たちがいなくなったあと、この子はひとりで生きていけるのだろうか」と、不安を抱えています。そのため、生活できる寮を設け、働いて収入を得ることで自立を支える仕組みを作りたいんです。また、社会的に弱い立場にあるシングルマザーの雇用を優先し、子どもが孤独を感じないように配慮した「誰でも食堂」を併設する計画もあります。子どもだけでなく、あらゆる人が利用できる場にしたいと考えています。「誰も置き去りにしない施設」を目指し、支え合える場を作ること。それが、私の願いです。
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現在は動物福祉や障がい者の就労支援など、地域に根ざした活動を行う田中美奈子さん。私生活では40歳で7歳年下の男性と結婚し、現在は高校生になるふたりのお子さんが。いまも距離が近い仲良し親子でいる秘訣は、キャンピングカーでの家族旅行だそうです。
取材・文/西尾英子 写真提供/田中美奈子