「給料が払えない」事務所もなくなって…
── 芸能界で長年活躍されてきた田中さんですが、キャリアのなかで困難に直面した時期もあったのでしょうか?
田中さん:ありましたね。バブル崩壊の影響で、所属していた芸能事務所の社長が株の暴落に巻き込まれ、事務所を閉めることになったんです。同じころ、父が亡くなり、立て続けにつらいできごとが重なって気持ちが追いつかない時期でした。事務所からは「給料が払えないのでレコード会社に移籍してほしい」と言われ、環境が大きく変わってしまったんです。
レコード会社では、それまで所属していた芸能事務所とは違って音楽活動が優先されるので、映画やドラマの仕事はあと回しに。決まっていた映画の仕事もやむを得ず断ることになり、ひとりで謝罪に回ったのですが、レコード会社の対応が悪く、出入り禁止になってしまった現場も…。信頼できる人が周りにおらず、業界の仕組みに振り回される日々が続き、心が疲れてしまったことがありました。
── 苦しい状況のなかで、どうやって気持ちを立て直して前に進んでいったのでしょうか?
田中さん:最初はつらくて、悶々としていました。でも、状況をよくするには、私自身が変わるしかないと気づいたんです。周りのせいにしても、何も変わらない。だったら受け止め方を変えよう、と。この試練は自分を成長させるためのもの。乗り越えた先には、きっと新しい景色が広がっているはずだと捉えることで、逆境を恐れる気持ちがなくなりました。
── 50代後半となり、ますます精力的に活動を続ける田中さん。今、力を入れていることや、この先挑戦してみたいことがあれば教えてください。
田中さん:大好きなコメディにもっと挑戦していきたいですね。最近も、スマホ専用ドラマで嫌味な社長夫人役を演じたんですが、ちょっとおもしろいキャラクターにしたくて、ほかの俳優さんたちと相談しながらアドリブを交えて演じました。クスッと笑ってもらえるようなシーンになったと思います。

2年前にはコーラスサークルを立ち上げました。テレビ番組の合唱バトルで、80年代アイドル合唱団として懐かしい仲間たちと共演したのを機に、「Neo☆Stars」という合唱団を結成し、活動しています。メンバーは、西村知美さん、つちやかおりさん、渡辺めぐみさん、大西結花さんをはじめとする80年代アイドルや、麻倉未稀さん、彦摩呂くん、ものまねタレントの山本高広くんなど、バラエティ豊かな顔ぶれ。エンタメと社会貢献を両輪に、人と人をつなぎ、笑顔を届けることを目指しています。
人生も後半戦。ここからは、本当にやりたいことだけを大事に刻んでいきたいんです。好きなことを通じて、世の中の役に立ちたいという思いが年々強くなっています。
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芸能活動と並行し、動物福祉の活動にも力を入れている田中さん。きっかけは1990年代から放送をしていた紀行ドキュメンタリーテレビ番組『世界ウルルン滞在記』の出演でした。現在は「殺処分ゼロ」を目指す動物保護施設の立ち上げに注力しているそうです。
取材・文/西尾英子 写真提供/田中美奈子