小室哲哉さんの会見で「高次脳機能障害かも」と

── どんなきっかけがあったのでしょうか?

 

梅野さん:2018年、小室哲哉さんが会見で元妻・KEIKOさんが、くも膜下出血の後遺症で高次脳機能障害があることを公表しました。「大人の会話が難しい」「4年生の漢字ドリルに取り組んでいる」というお話で…。小室さんの会見がきっかけで、高次脳機能障害の記事が増え、その症状の多くが夫に当てはまる感覚を得ました。

 

調べてみると、自宅のある自治体には「高次脳機能障害相談室」がありました。すぐに相談室に行き、担当者に状況を伝えると「ご主人は高次脳機能障害があるのかもしれないですね。一度ご本人を連れてきていただけますか?」と、言われました。2003年に脳腫瘍が見つかってから15年、ようやく、ようやく夫の異変を理解してもらえた瞬間でした。思わず「苦しくて、ずっと離婚したいと思っていたんです」と伝えると、担当の方は「離婚したかったら、それは止めませんよ。あとは私たちが責任をもって、フォローしますから大丈夫」と答えてくれたんです。

 

その言葉を聞き、「私の感じていた違和感は私のせいじゃないんだ」「やっと理解してもらえた」と、ほっとしました。同時に「やっぱり夫を見捨てるわけにはいかない。妻である私が支えよう」と、腹をくくったんです。そこから2022年に夫が亡くなるまでの4年間、夫と私の高次脳機能障害との戦いは続きました。

 

夫自身も高次脳機能障害によってたくさんの困りごとを抱えていると気づいたんです。私たちの関係は「夫婦」から「病気に立ち向かう戦友」となりました。彼の高次脳機能障害は見た目からはまったくわからないです。だからこそ少しでも多くの人たちにこの障害のことを知ってもらえたら…と考えています。

 

 

夫の高次脳機能障害が判明した梅野さんですが、職場でも夫の言動は疑問視されていたそうです。しかし原因がわかったことで、会社もサポート体制を強化するようになりました。2020年に脳腫瘍が再発して運動機能にも影響が出たため、亡くなる前年の2021年に職場を退職することになりますが、30年近く勤続できたそうです。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/梅野はるか