書籍の出版記念パーティーでの母のひと言

畠山織恵
書籍の出版記念パーティーでご主人と

── 子育てを通じて、畠山さんご自身も成長されたのではないでしょうか。

 

畠山さん:そうですね。自分の経験を子育てに生かせるって、最高のしあわせだと思うんです。小さいころ、親の言いなりになって自信が持てない自分がいたから、今子どもに「自分を好きになって」「あなたならできる」と言えているし、子どもたちの挑戦をあと押しすることができている。息子と出会えたことで、「自分でよかった」と過去も含めて自分を認めることができました。

 

仕事でもそうです。幼児用教材を扱う会社に勤めていたとき、教材を購入してくださったお母さんに「私は畠山さんに話を聞いてもらいたいから教材を買いました」と言われました。生きづらかった自分、障害のある子どもを育てる自分だから、子育ての悩みに共感したり、理解したりすることができて、お客さまに喜んでもらえた。このことは、12年勤めた会社を辞めて、起業するきっかけにもなりました。漠然とですが、自分の経験を生かして誰かを喜ばせる仕事をしたいと思いました。

 

── それで、ご自身の経験を発信されたのですね。

 

畠山さん:起業したからには発信しなければと思って、ブログを始めました。書いてみたら「私、文才あるんちゃう?」って(笑)。「自分も同じです」「元気が出ました」というコメントをいただいて、「いつか誰かを勇気づける本を出したい」と思うようになりました。私自身が、乙武洋匡さんの著書『五体不満足』を読んで勇気づけられたので、私の経験で誰かを勇気づけるような本を出したいと思ったのです。2022年に出版社主催の「日本ビジネス書新人賞」に応募してプロデューサー特別賞を受賞して、書籍『ピンヒールで車椅子を押す』を出版することができました。

 

本には両親とのつらい過去も包み隠さず書いています。厳しい父と私は折り合いが悪く、逃げるようにして結婚という形で家を出ましたし、子どもを産んだ後も父に「しょうもない子どもを産みやがって。二度と帰ってくるな」と言われました。父は他界していましたが、母が読んだら悲しむんじゃないかと不安でした。いっぽうで「亮夏をよくここまで育てたな。よく頑張った」という言葉を父は生前、私にかけてくれました。そのことも書きました。「けっしてお父さんとお母さんを悪く言うために書いた本じゃない。ぜひ読んでほしい」と、母に見本誌を届けに行きました。

 

母は本を読んでくれて、私が「お世話になった人を招いて出版記念パーティーを開くから、来てほしい」と伝えると、「じゃあ、服を選んでくれる?」と。うれしかったですね。母はその服を着てパーティーに来てくれて、前に出て挨拶もしてくれました。そのとき司会の方に「お父さんがここにいたら、なんて言ってくれたと思いますか」と聞かれて、私は思わず言葉につまってしまったんです。そうしたら母が、「喜んでます。ほめてます」と言ってくれました。その瞬間「本を出せてよかった」と救われた気持ちになりました。

 

障害のあるなしに関わらず、自分の人生を自分で作れるっていいなと思うんです。「自分」として生きることをあきらめなければ、自分で自分の人生を作っていく力を誰もが持っていると思います。いつか父に会うことができたら、「私、ようやったやろ」と笑顔で言おうと思っています。

 

PROFILE 畠山織恵さん

はたけやま・おりえ。重度脳性まひの息子とともに一般社団法人HI FIVE設立。介護・医療従事者向け研修や、専門学校や大学での講師、講演などの活動を行う。著書に『ピンヒールで車椅子を押す』(すばる舎)。

取材・文/林優子 写真提供/畠山織恵