多様性を尊重される今「浮いている違和感はない」

── 外出先で娘さんたちのために配慮されていますが、学校などでの保護者同士のつき合いはどのような感じですか?

 

谷さん:参観日などではあまり目立たない格好をしています。私とパートナーが似ているので、やはり「お母さん」として同一人物だとみなされているようです。ほかの保護者としゃべっても、「この間の続きだけど」など、話のつじつまがあわないことがあります。いっぽう、娘たちには「お父さん」と呼ばれているので、「どういうこと?性別は?」と、疑問に感じる方はいるようです。いまのところ、深く事情をたずねる人もいないので、距離感を保ったつき合いが続いています。

 

谷琢磨
子どもたちが幼児期の親子外出は谷さんもキラキラファッションだったが現在は目立たぬよう心がけている

── たしかに、どこまでふみこんでいいのか、聞いても失礼にならないのか…など考えてしまうかもしれません。ご近所ではいかがですか?

 

谷さん:近所の児童館でお母さん方と話したとき、「じつは娘たちのお父さんなんです」と説明したら、沈黙の後「(お母さんだけど)お父さんとしての役割も果たされているのですね(一人で二役を担って頑張ってますね)」と、気をつかわれてしまったことがあります(笑)。近所の子どもたちは、いつも派手な女装姿の私を知っているので「えー、パパなの?」「かわいい!」と、友だちのお父さんというより、やはりマスコット扱いです。

 

── 女装開始から10年以上たちますが、世の中の変化は感じますか?

 

谷さん:以前は初対面の場合、相手が内心驚いているのが伝わってきたのですが、みなさん平静を装って私に接していました。いまは、初対面でもそれほど驚かれず、「そういう個性もあるんだ」と、受け入れてくれる人が増えました。とくにこの10年間で、多様性やLGBTQへの理解がずいぶん深まったと感じます。いまは「自分は女装しているけど、本当は男だ」と過度に意識したり、まわりから浮いている違和感を持つことがなくなりました。女装も個性のひとつとして受け取る人が増えたのかもしれません。「すごい服だね」など感想はいただいても、リアルでもSNS上でも誹謗中傷を受けたことは一度もありません。

 

PROFILE 谷 琢磨さん

たに・たくま。1977年生まれ、東京都出身。ロックバンド『実験台モルモット』ボーカル。モデル、タレント、イラストレーターとして活動。小1・小3女児を育てる父親。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/谷 琢磨