完璧主義から「あわてない」が口グセに

──「あわてない」は、心を緩めることにつながるフレーズですね。そう思えるようになったのは、何かきっかけが?

 

松本さん:妊娠中、共同で運営していた東京・府中のスタジオが、コロナの影響で閉鎖の危機に陥ったんです。ディレクターとしての責任を感じるいっぽうで、夢だったスタジオを手放すことは、とても辛く悲しい決断でした。でも、お腹の中の命を守りたい気持ちがあり、当時は何度も泣いて悩み、考え抜きました。

 

そんなとき、母に「仕事よりも、もっと大事なものがあるでしょ!」と言われてハッとしたんです。「正義感を持ちすぎると生きづらくなるよ。自分の心がラクでいられるほうを選びなさい」という、母の言葉が心に沁みました。

 

松本莉緒
いまも日々ヨガの学びを探求しているという

── いざとなったら「手放す覚悟はいつでもある」と言えるのは、そうした経験があるからなんですね。

 

松本さん:「完璧でいたい」と「後悔したくない」って、似ているようでじつは違うものだと思うんです。「完璧でいたい」は、物事を理想どおりにしようとすること。いっぽうで、「後悔したくない」は、そのときの自分が納得できる選択をすること。目指す方向が違う気がします。いつでも手放せる覚悟があるからこそ、目の前のことに全力で向き合えるんじゃないかなと。

 

スタジオの運営で大切にしているのは、「人が喜ぶことをする」。生徒さんが喜ぶ顔を思い浮かべて、目の前のことに没頭していれば、完璧ではなくても、後悔はしないと思うんです。

 

PROFILE 松本莉緒さん 

まつもと・りお。1982年、青森県生まれ。1995年にドラマ『終らない夏』でデビュー。『聖者の行進』、『モテキ』など数多くのドラマや映画、CMに出演。2014年にヨガの国際ライセンス「RYT200」を取得し、ヨガの講師として活動をスタート。現在は、新潟に自身のスタジオ「Slow」を運営し、ヨガを通じて心身の健康を広めている。自身初のエッセイ「Real Me」執筆中。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/松本莉緒