芸名を変えて再出発も…見つけた新しい道

── 芸名も「松本恵」から「松本莉緒」に変え、芸能活動を再びスタートされました。数々のドラマに出演し、CMなどでも引っ張りだこでした。

 

松本さん:俳優は役を通して憧れの職業を経験し、さまざまな人生を生きられるおもしろさがありました。でも、「私の居場所はここだ」と胸を張っていえるほどの自信は持てなかったんです。正直、実力というより、周囲の支えがあって舞台に立っている感覚があって。演技に対して自信を持てたことは、一度もありませんでした。それでも2度目のチャンスをくれた周りの期待に応えたい、その恩に報いなければという気持ちで、必死に役割をこなしていた気がします。

 

── 当時の活躍ぶりを拝見していたので、そんな葛藤があったとは意外でした。

 

松本さん:30歳を過ぎて、「この先、演技の世界で求められなくなっていくのではないか」と、ばくぜんと感じていました。でも、それに抗って何かをつかみにいくほどの熱量はなくて。今後の人生を考えるうえで、芸能界以外でも生きていけるスキルを身につける必要があるのではないかと思うようになりました。

 

── かつて「王族から特別な接待を求められる」という不本意な状況に直面されたことがあるとニュースなどで拝見しました。そうした経験も、芸能界を離れるというその後の選択に影響を与えたのでしょうか?

 

松本さん:もちろんそれだけではないですが、理由のひとつにはなっていると思います。30歳前半のころ、関係者に呼ばれて行ったお店に王族と呼ばれる方がいて、不本意な接待をするように求められて、もうビックリして…。身の危険を感じ、お店の人に「非常階段どこですか!?」と聞き、5分も経たないうちにその場から逃げ出しました。

 

── 大変でしたね…。人間不信になってもおかしくないような出来事です。

 

松本さん:たしかに、そのときはものすごくショックでした。でも、私はその後、ヨガというクリアで心から自分らしくいられる場所に出会うことができました。ですから、過去のことは水に流すことにしたんです。2014年に、ヨガの国際ライセンスを取得し、ヨガインストラクターとして活動をスタート。いまは、夫の故郷である新潟に移住してヨガスタジオを経営し、子育てとヨガの指導者として充実した日々を送っています。

 

── ちなみに、演技のお仕事はもうしないと決めているのですか?俳優としての松本さんを「また見たい」という声も聞きますが…。

 

松本さん:いや、さすがにもう需要はないでしょう(笑)。いまは完全にヨガに軸足を置いていますし、お芝居からずいぶん離れてしまいましたから。ただ、たまにヨガの生徒さんから、「いまの松本さんで演技をしたらどうなるか見てみたい」と、言っていただけることがあって、それは素直にうれしいです。もし求められるなら、やってみてもいいかなと思う気持ちも少しありますが…セリフが覚えられないかもしれません(笑)。

 

ただ、芸能の世界から距離を置いているからといって、過去の自分まで否定しているわけではないんです。むしろ、いろんな出会いと経験をさせてもらったことにすごく感謝をしています。あのころの私がいたからこそ、いまの私がいます。芸能の仕事を経験したうえで、自分の意思で選んだいまの道と人生。私らしく過ごせていることがとても心地よくて、心から幸せなんです。試行錯誤しながらも、自分の手で生きやすい環境を築いてこられたこと。それが、私にとってなによりの自信になっています。

 

 

芸能界からヨガの世界へ。腰掛けや副業ではなく、ガチンコでその世界に飛び込んだ松本莉緒さん。現在は旦那さんの故郷である新潟県に移住し、自身のヨガスタジオを運営しています。

 

PROFILE 松本莉緒さん 

まつもと・りお。1982年、青森県生まれ。1995年にドラマ『終らない夏』でデビュー。『聖者の行進』、『モテキ』など数多くのドラマや映画、CMに出演。2014年にヨガの国際ライセンス「RYT200」を取得し、ヨガの講師として活動をスタート。現在は、新潟に自身のスタジオ「Slow」を運営し、ヨガを通じて心身の健康を広めている。自身初のエッセイ「Real Me」執筆中。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/松本莉緒