── 身内のがんが発覚したとき、私自身も最初にネットで「余命」や「生存率」を調べた経験があります。田崎さんは、手術に至るまでどのような説明を受けたのでしょう?
田崎さん:精密検査の結果、腫瘍がみつかりました。通常なら、組織を取って検査に回し、良性か悪性かを調べますが、腎臓にできる腫瘍の90%は悪性だそうで、がんの可能性が高いとのことでした。さまざまなリスクを考え、組織検査を飛ばして直接手術をすることになったんです。正直「腎臓、取らなあかんのか…」とショックで気持ちが追いつきませんでした。
ところがそのとき、「ふっ」と先生が笑ったんです。「いや、こっちは不安でいっぱいなのに、なに笑っとんねん」と僕も奥さんも戸惑いました。ただ、よくよく話を聞くと、どうやら腫瘍の場所が腎臓のいちばん下の端だったらしく「ここなら部分切除で済むな」と安心して思わず笑みがこぼれたらしくて。場所によっては腎臓をすべて取る必要がありましたが、部分切除が可能で腫瘍の大きさも3、4センチほど。ステージ1程度だろうという見立てでした。
── そこから手術に向けて進んでいったのですね。
田崎さん:先生の話を聞いて少し安心はしたものの、手術の日が近づくにつれ、不安がどんどん大きくなって、初めて「死」を意識しました。でも、それを口にすると余計に怖くなってしまう気がして、なんとか気丈に振る舞っていましたね。
── 術後の痛みがかなりつらかったと聞きました。
田崎さん:僕は痛みに弱いほうなのかもしれませんが、術後の痛みは本当にキツかったです。痛みで眠れないという経験は初めてでした。痛みをやわらげるために、硬膜外麻酔を使って背骨のあたりに細い管を入れ、麻酔薬を流すのですが、3時間ほどで麻酔が切れると、また痛みがぶり返します。最初の3、4日は特にひどくて、強い鎮痛薬を使っていました。あまりの痛みで気持ちが落ち込みました。
もうひとつ、つらかったのが尿道カテーテルです。抜くときに、麻酔をかけずにスッと引き抜かれ、まるで熱々の鉄の棒が体を通っていくような痛みと気持ち悪さがありました。衝撃でしたね。こんなに医療が進歩しているのに、どうしてそこだけアナログなのかと。もう2度と経験したくないです。
── 抗がん剤などの治療はされなかったのですか?
田崎さん:ステージ1の初期で、腫瘍の場所も腎臓の端で取りやすい位置だったので、部分切除だけで済みました。その後は薬も飲んでいません。芸人の先輩からは「これは宝くじ当たったぐらいのラッキーやで!」と言われましたね。ただ、腎臓からの出血がなかなか止まらなくて入院が予定より長くなり、結局1か月弱に。その後はすぐに仕事に復帰しました。周りは「ゆっくりでいいよ」って言ってくれたけど、自分としては早く戻りたかったんです。戻る場所があることが、頑張る気力になりましたね。