音楽教師の私でもピアノ伴奏が嫌で号泣した経験も
── 一概にベストだとは言えないのですね。学生時代を振り返ると、歌のテストの際、顔を真っ赤にして楽譜で顔を隠しながら歌う友だちがいました。どうしてもイヤだと悩む人にかける言葉はありますか?
コギトさん:音楽教師がこんなことを言ってはよくないのかもしれませんが、「たかが音楽」です。どれだけ音程が外れたり、リズムがズレたりしても、誰も死にません。また、そのときはストレスを感じても、音楽のテストだって経験すれば、今後の人生にとってプラスの経験になるはずです。
音楽の授業とは異なりますが、僕は小学生のとき、ピアノを習っていることで「女みたい」とからかわれていました。それなのに、卒業式でピアノ伴奏をするように先生に言われ、まわりに冷やかされたらどうしようと、泣き出したことがあります。でも、なんとか気持ちを立て直して弾いたらほめられ、誰からもからかわれませんでした。自分の演奏に自信を持つきっかけになったので、いまではやってよかったと思いますし、この仕事につながる経験になった気がします。
── イヤだと思っても、やってみると新しい世界が拓けることがたしかにあります。でも、致命的なトラウマになりそうなほど悩んでいる子はどうしたらいいでしょうか?
コギトさん:とりあえず、音楽の先生に相談しましょう。テストひとつで一生影響を受けるなんて、もったいないです。音楽は、技術以外にも感性や個性が重要です。自分自身の反省でもありますが、生徒に音楽を表現する喜びを知ってもらいたいと、教師側もつい情熱的になり過ぎることが多々あります。
だからこそ、音楽教師は自分の情熱や「こうあるべき」を押しつけすぎてはいけません。目の前の生徒をきちんと見て、置きざりにしていないか?など、生徒のモチベーションに合わせる気持ちやバランス感覚が必要です。「真剣に悩んでいます」と、相談に来る生徒や本当にイヤがっている子どもの気持ちを汲み取れる先生でいたいですね。
PROFILE コギトさん
こぎと。音楽教師歴18年の元教員。鑑賞・創作・器楽合奏授業を得意とし、音楽教材制作に専念するために退職し、独立。ピアノ歴20年以上。
取材・文/岡本聡子 写真提供/コギト