ふだんは音楽を聞くのが大好きなのに、子どものとき、音楽の授業で皆の前に立って歌うことに緊張し、赤面した人もいるでしょう。大人になってカラオケが楽しめる人もいれば、いまだ人前で歌うのは苦手という人も。その理由はなんなのでしょうか?

人前で歌うのがツライのは上手い下手が理由でない

── 音楽は好きでも、学生時代の音楽の授業で嫌な思いをした人たちが一定数いるように思えます。たとえば、音楽のテストで「みんなの前で、歌ったり演奏しなければならないのがつらくて授業が嫌いになった」といった声です。18年間音楽教員を務め、現在は音楽授業教材を制作するコギトさんはどのように感じられますか?

 

コギトさん:音楽の授業は、楽器演奏や音楽鑑賞、歌唱などさまざまな内容で成り立っています。ご指摘のように音楽の授業を嫌いになるいちばんの理由は、私の経験からも「みんなの前で歌うテストにより、羞恥心を感じたり自尊心が傷つくこと」だと、考えられます。本人は、いわゆる「弱みや恥ずかしさをさらす公開処刑」のように感じるのでしょう。

 

また「音楽鑑賞」の授業で「この曲は何を意味しているか」と問われ、「何を答えとして求められているのかわからない」「正解はあるのか、自分の感性を表現してよいのか」ととまどって、授業がイヤになる生徒もいます。

 

私の考えですが、音楽を鑑賞して感じる内容はひとそれぞれなので、生徒に自由に書かせた感想を成績評価に使うのは難しいと感じます。自由な感想を用いて評価する先生もいますが、私は「授業で説明した音楽用語を使って」などと指定して、生徒が音楽的観点から文章が書けるかを評価する工夫をすることがあります。もちろん、すべての場面で評価を行うのは現実的ではないため、ふだん、プリントに短い感想を含めいろいろ書かせるなかで、教師がどの部分で評価をすればよいか選択しています。

 

── さまざまな工夫をされているのですね。歌のテストに関しては、私もクラスメイトを前にしてひとりで歌うときはドキドキしていました。歌の技術や表現も問われますが、メンタル面の負担やストレスを感じました。

 

コギトさん:「人前で歌え、ひとりで演奏しろ」と言われれば、まわりの目を気にして誰でも緊張します。その緊張により「よし!」とやる気がわいてくる人がいるいっぽう、絶望するくらいツライと感じる人もいて、反応は人によりさまざまです。音楽教師の私だって、たとえば「合唱曲をみんなの前で歌ってみて」と言われたら、緊張してドキドキしますよ。

 

── 先生でも緊張するんですね、なんだか安心しました。そもそも、歌のテストは音楽の授業で必ず行われるものなのでしょうか?

 

コギトさん:音楽科目は「歌唱」「鑑賞」「創作」「器楽」の四分野で成り立っています。教育指導要領により授業ですべてを実施するよう決められています。また、教師は成績をつけるために各項目を「評価」をしなければなりません。歌唱力を評価するうえで、じつは歌のテストは必須ではありません。しかし、生徒一人ひとりの力を効率的に把握できるという点で、クラスのみんなの前で、たったひとりで歌う形式が浸透したのでしょう。別室に呼んでテストをするといった工夫を行う方もいますが、先生とふたりだけという状況もまた緊張しますよね。