撮影はいまだに恥ずかしいと思うことはあるけれど 

── 初めての撮影のことは覚えていますか?

 

植草さん:やっぱり緊張しましたね。空手の世界にいると顔見知りが多く、自分のことを知っている人は多いけれど、プラスサイズモデル界では新参者。「植草です、よろしくお願いします!」とまずはほかのモデルさんのところへ挨拶に行きました。

 

植草歩
モデルをはじめて約半年経つ植草さん。ポージングは「まだまだ難しい」

撮影のときも、空手ならどういうポーズが美しくて、どういう動きがカッコイイかはわかるんですけど、モデルのポージングがまったくわからなくて最初は戸惑いました。だから周りの方のポージングを真似るところから始めて。まだまだ今も勉強中です。

 

── モデルに挑戦して半年ほど経ちますが慣れてきましたか?

 

植草さん:いまだに恥ずかしいと思うことはありますし、モデルとしての写真を見て「かわいい」と言われることに歯がゆさも感じます。でも普段着ないような洋服を着たり、髪型や化粧をしていただくのはやっぱり楽しい。現役時代に勝つことで満たされていた欲求に近いものがあると思います。一時期は心が病んでおしゃれがしたいと思わなかったり、自分の写真をSNSにアップする気力もなくなりルーズな生活が楽しくなってしまっていたけれど、そんな自分を救い出してくれたのは、間違いなくプラスサイズモデルへの挑戦でした。いつまでも世界チャンピオンの植草歩、オリンピアンの植草歩ではいられない。未来を築き上げていくためにも、新しい世界に足を踏み入れることは大切なことだし、必然だったなと今は思っています。

 

── モデルという新たな挑戦真っただ中ですが、その決断にもつながった気づきや価値観を変えるような体験、きっかけはあったのでしょうか。

 

植草さん:実は現役時代の2022年の2月ごろに、1か月ほどアメリカでホームステイしたことがありました。空手のセミナーで渡米したのですが、そのときに知り合った現地の道場の女性との出会いは新たな気づきになりましたね。食事をするときに彼女から「アユミは何を食べたい?」と聞かれて、私は「あなたのオススメを」って答えたんです。そしたら「私はアユミが何をしたいのか聞いているの」と言われて。「わかんない」と答えたらダメ出しされました(笑)。それまであまり自分のやりたいことを考えたことがなかったんです。それまでの自分はすごく受動的だったし、周りから求められるものに応えようとばかりしていたんだなって気づいたんです。だからそうやって改めて聞かれて、自分がどうしたいのか、何をしたいのかを真剣に考えるようになりました。

 

── モデル・植草歩としてはいかがでしょうか。

 

植草さん:モデルの道を進むなかで心に響いたのは渡辺直美さんの存在です。自分を堂々と表現している姿に感銘を受けましたし、彼女の姿を見て、自分自身をもっと大切にしようと思いました。自分の体形や外見を誇りに思ってポジティブに生きる姿を発信し続けている姿からはパワーをいただいています。私も海外で空手の指導を行ったりすることがありますが、国や宗教によっては人種差別や男尊女卑が強く残っていると感じたことも多々ありました。そこで私も言葉で伝えて行けるような人間になりたいですね。

 

取材・文/石井宏子 写真提供/植草歩