まずは「死んでいる部屋」をなくす

── 元気な親に生前整理を勧めるのは気が引けるという人も多そうです。どのように説得すればよいでしょうか。

 

柴田さん:たとえば、子どもが生まれて親に孫の顔を見せに行く。そういう機会が「ちょっと家を片づけよう」というきっかけになったりします。

 

家の中にも、生きている部分と死んでいる部分がある。人が住んでいても、何年間もものが置きっぱなしで放置された部屋や押し入れなどは、もう死んでいます。居住スペースがあるぶん、片づけないと生きている部分が増えないんです。

 

たとえば、親の家に孫を連れて泊まりにいくという口実で、ずっと物置として死んでいた部屋を片づけてもらう。そうなると、家がちょっと息を吹き返すというか、片づける方向に進んでいきます。僕がお勧めしているのは、かつて自分が使っていた子ども部屋をまず片づけること。けっこうそのままになっているケースが多いんですよ。それが、実家の生前整理につながる最初の一歩だと思っています。

 

子ども部屋から片づけてスペースができたら、今度は死んでいる部屋に積みあがった段ボールをそこに移動する。そこで初めて、段ボールに詰め込んだものの選別ができます。荷物でパンパンになっている家の場合、どこから手をつけていいのかわからなくなっているから、ひと部屋分のスペースを空けるっていうのは、かなり重要なんです。

 

まずは死んでいる部屋をひとつ減らすことから始める

── やはり親世代からの実家じまいの依頼は多いのですか?

 

柴田さん:親世代は業者に頼むこと自体に抵抗があることが多いので、その子ども世代からの依頼が多いです。ただ最近は、遺品整理のほうが多い印象がありますね。 片づけると決めたときに、家族だけで行うのか、業者に依頼するのか。そういった相談を家族にすることも、生前整理のきっかけになります。

 

また、片づけのタイミングとして多いのが、親が施設に入るために実家を引き払うことになったケース。あとは、親が病気になって子どもの家の近くに引っ越したり、同居したりするケースですね。そもそも、かつて家族4、5人で住んでいた家に、残された80代の親がひとりで住むには広すぎる。使う部屋が限られているなら、物を減らして生活に合う家に引っ越しをするのもひとつの方法だと思います。

 

── 親自身の生活が変わらないと、片づけは難しそうですね。

 

柴田さん:たしかに、明らかなきっかけがない状況からの生前整理は難しいです。いちばん大事なのは、親に片づけたいという意思があるかどうか。ですから、親をどうやって片づけたいという気持ちにさせるかが重要です。

 

たとえば、荷物が積みあがっているような家だったら「危ないね」とか、防災の観点から見て「頭の上に落っこちてくるよ」というようなことを伝えてみる。自分のために片づけたいというよりは、あなたたちの今後の幸せのためだよ、というアプローチの仕方ですね。僕が経験したのは、夫と死別した女性が、遺品でいっぱいの夫の部屋につらくてずっと入れなかったというケース。そういう場合は当然、業者も入れません。自分の中で踏んぎりがつけられないと、片づけは絶対に進まないんです。