42歳で死産を経験した志賀志穂さん。その後、里親として緊急一時保護で生後間もない赤ちゃんを迎え入れますが、育ての親として、募る育児の孤立感に直面します──。(全4回中の3回)

どんな子であっても受け入れる覚悟

志賀志穂
「自分たちを必要としてくれる子がいるなら育てたい」と志賀さん

── 児童相談所で里親登録をすると、緊急一時保護で0歳の男の子を預かることになり、その2年後に特別養子縁組になったそうですね。

 

志賀さん:最初は里親ではなく、ずっと一緒にいることができる特別養子縁組を考えていました。でも児童相談所で話を聞くと、縁組を希望する夫婦は全国に待機しており、なかでも0歳の赤ちゃんを望む夫婦が圧倒的に多いとのこと。障がいのある子ども、一時保護など短期委託の里子は、受け入れる里親がまったくたりていない厳しい現実を知りました。そこで私たちは「子どもが欲しいという夫婦の願いよりも前に、性別や年齢、障がいの有無にかかわらず、自分たちを必要としてくれる子」がいるなら里親になってみたいと、夫婦の思いが変化していきました。

 

── 赤ちゃんを預かった当初は「緊急一時保護」だったため、児童相談所から赤ちゃんがいることを周りに明かさないでほしいと言われたとのこと。子どもの安全確保のためとはいえ、預かる立場としても大変な思いをされたのでしょうか。

 

志賀さん:はじめての育児で不安があるなか、周りに相談できないことに加えて、生みのお母さんに親権者の同意の確認が取れず、予防接種を受けられない期間があって、とても心細い思いをしました(里親制度は、育てられない親の代わりに里親家庭で養育する制度。そのため里親と子どもに法的な親子関係はなく実親が親権者となる)。

 

また、里親制度で父になった「里父」は、里子を家庭に迎えても日中は外で働いているため、社会とのつながりがきれません。いっぽう「里母」は、自治体によっては専業主婦が推奨されていて、妊娠期間もないため、事前に保健所などの母親学級に参加する機会がなく、ある日突然、育児が始まるのです。さらに、いずれ親御さんの元へと戻ることが前提の小さな命を育てるという重責に押しつぶされそうになりました。

 

── 周りのお母さんとのつき合いでも気を使った場面もあったとか。

 

志賀さん:緊急一時保護は、正式な里親委託前とした児童相談所の措置になるため、私の地域では里親サロンへの参加が禁止でした。その反動もあってか、正式に里親として委託された後は積極的に支援センターに通い、たくさんのママ友ができました。

 

そのいっぽうで里子の安全を守るため、子どもの個人情報に関する質問、たとえば「産院はどこ?」といった何気ない、気軽な質問にも安易に答えることができません。また、子ども同士を遊ばせて母・子ともに親しくなるほど、ママ友に言えない秘密が増えていきました。なかでも親しくなったママ友に育児の相談をしても「他人の子どもを育てるなんて偉いね」と言われてしまって、今度は逆に相談できなくなって。周りにたくさんの人がいるのに、なんだか孤独でした。