発達障害の子の行動にはすべて理由があると知って
── その後、AくんとBくんはどうなったのですか?
赤松さん:Aくんは、それから2か月に1回くらいのペースで、児童館で髪を切っていました。最初のころはカットクロスをすぐむしり取ったり、児童館の中を走り回ったりしていたけど、1年くらい経ったある日、こんなことがあったんです。
散髪後、お母さんと次の予約を決めていたとき、僕とお母さんが「次回は5月17日にしましょうか」と話していたら、Aくんが「月曜日」って言ったんですよ。当時のAくんは普段ほとんど言葉が出なくて、文字盤のあいうえおを指して意思を伝えてくれていたのですが、そのときは自分の言葉で伝えてくれて。
僕が「月曜日?合ってるよ。カレンダーわかるの?」と驚いて聞くと、お母さんが「Aはね、カレンダーのことめっちゃ覚えんねん」って教えてくれて。お母さんの言う通り、Aくんはカレンダーを見ないで曜日を言えるし、何回か試した日にちを当てるクイズも全部正解。そこで、時計を使って、Aくんにカットが終わる時間を伝えるようにしたんです。「今から切るね。長い針が12から2のところまで頑張って座ってよ。それ以上は切らんからね」って。そうしたら、Aくんは「10分」と言って、座って待ってくれたんです。

── すごいですね!
赤松さん:このときわかったんですけど、Aくんは、いつ散髪が終わるのか、ゴールがわからなかったからしんどかったんです。だから、少し髪を切るたびに「終わったよね?」って立ち上がっていた。何分後に終わるのか、彼にわかるようにちゃんと伝えていなかった僕たちに落ち度がありました。
Aくんは、1年後には「赤松さんは髪の毛を切る人で、髪の毛を切るのは痛くないこと」だと理解できるようになりました。Aくんたちは、わがままなんかじゃない。立ち上がったり、嫌がったりするのには「理由がある」んだと、僕も理解しました。そんなAくんは、22歳になった今もうちの美容室に通ってくれているんですよ。