突然パニックを起こした子に呆然…自分を責めた

── お母さんたちからお子さんたちの散髪を頼まれて、その後どうされたのですか?

 

赤松さん:Aくんは、長い間じっと座っていられないなど多動症の特性がありました。だから、職員さんがAくんを抱っこして椅子に座り、もうひとりの職員さんが絵本の読み聞かせをしている間に僕がバーッと切って。何度も立ち上がってウロウロ動き回るから、全身毛まみれになったけれど、なんとか切ることができたんです。

 

Bくんのほうは、逆に緊張しっぱなしで、お母さんと手をつないで下を向いてじーっと静かにしてくれていて。いつもはお母さんがお風呂場で少しずつ、1週間くらいかけて髪を切っていたらしいのですが、僕が5分ほどで切り終わったら、お母さんや児童館の職員さんが「すごいね!」って喜んでくれて。だから、僕、ちょっと調子に乗ってしまったんですよ。

 

赤松隆滋
子どもたちがカット中に楽しく過ごせる工夫は怠らない。子どもにわかりやすい絵本も手がける赤松さん

お母さんからは事前に、「この子は聴覚過敏があって大きな音が苦手だから、ドライヤーとバリカンは使わないでね」って言われていたから「ハサミだけで切りますね」と約束していました。でも、5分で髪全体を切った後、衿足に残った小さなうぶ毛が気になってしまって。「少しなら大丈夫だろう」とバリカンでうぶ毛を切ろうとしたんです。「このうぶ毛だけバリカンで切るね」と言ったあと、お母さんの返事を待たずに…。

 

「もっときれいに仕上げたい」って思ったんですよね、しょうもないプロ根性だったと思います。もし気づいて振り向いたら、「何もないよ」ってバリカンを隠せばいいって、子どもだましが通用すると思っていた。ところが、僕がBくんの耳のすぐ裏でバリカンのスイッチを入れたら、ウィンッて小さなモーター音がした途端、Bくんは大パニックを起こしてしまいました。児童館の中を走り回るBくんをお母さんが慌てて「大丈夫だよ」って抱きしめて…。僕はその様子をただ傍観することしかできなかったんです。

 

まわりの人たちは「これだけ髪を切れたんだからすごいよ」と慰めてくれたけれど、僕は自分を責めました。昔、「小学校の先生になりたい」って思っていたくせに、子どもにつらい思いをさせてしまったと。その日の夜は眠れませんでした。

「これからもこの子の散髪をお願いしてもいいでしょうか?」

── Bくんのことですごく後悔されたんですね。

 

赤松さん:あの夜は眠れないまま、夜中にパソコンを開いて、発達障害や過敏症のことをいろいろ調べました。初めて発達障害と向き合った時間でした。次の日の朝には、お母さんに電話で改めてお詫びをして、Bくんの自宅での様子をお聞きしました。

 

髪を切ることを通して、赤松さんは子どもたちと真剣に向き合っていった

お母さんは「家に帰ってからもちょっと取り乱してね。軽いてんかんも起こして大変だった」と話してくれましたが、グッと堪えているような様子が伝わってきて…本当は文句を言いたかったと思います。それなのに「これからもこの子の散髪をお願いしてもいいでしょうか?」と言ってくれて。その言葉を聞いた瞬間、僕は「この子と真剣に向き合おう」と覚悟を決めました。