発達障害のある子どもと親たちが全国から集まる美容室「Peace of Hair」(京都府)。代表の赤松隆滋さんは、「NPO法人そらいろプロジェクト京都」を立ち上げ、子どもたちが安心して通える美容室を各地に増やす取り組みを続けています。活動を始めたきっかけはある女性からの意外な依頼でした。(全2回中の1回)

動き回る、バリカンが怖い…発達障害の子が抱える散髪の悩み

── 発達障害のあるお子さんの髪を切るようになったきっかけを教えてください。

 

赤松さん:昔から子どもが好きで、夢は小学校の先生になることでした。結局、ご縁があり美容師になったのですが、17年くらい前、独立してママ向けに前髪の切り方を教える「チャイルドカット講座」を始めました。その後、「チャイルドカット講座」を始めて2年たったある日、児童館で講座を開催したときにふたりのお母さんから相談されたんです。

 

「うちの子は発達障害があって、美容室に連れていけないから家で髪を切っているんだけれど大変で…お店の椅子にひとりで座って切ってもらえるようにしてあげたい。その練習につき合ってもらえないでしょうか?」と。そのとき、児童館の職員さんが「じゃあ、子どもたちが通い慣れたこの児童館の遊戯室で練習したらどうですか?」と提案してくれて、カットを担当することになりました。

 

赤松隆滋
子どもたちの髪を切り始めたころの赤松さん

── 小さいころは健常児でも髪のカットで悪戦苦闘しますが、発達障害の子の場合はどんな状況に…?

 

赤松さん:Aくんは、小さいころ一度、理容室に連れていったそうですが、カット中に暴れてしまって、お店の人に断られたそうです。結局、3軒お店をまわったものの3軒とも断られ、お母さんは「障害児は切ってもらうことができないんだ」と諦めたと。もうひとりのBくんは大きな音が苦手で、「ドライヤーなんて絶対無理。そもそも美容室に連れていったことがない」とお母さんは話されていました。

 

── そんな大変な状況にあったんですね。

 

赤松さん:そうなんです。僕は、障害のある人の訪問カットもしていたから、「おうちに行きましょうか?」と申し出たんですけど、お母さんたちは「ありがたいけれど、そういうことじゃないんです。子どもが家じゃない場所でひとりで椅子に座っていられることが大事なので」と。落ち着いて椅子に座れないと、美容室はもちろん、歯医者や耳鼻科にも連れていけない。でも、わが子より自分が先に逝ってしまう将来を思うと、自分でできることを子どものうちからひとつでも増やしてあげたいということでした。