バリカンに怯えていた少年のその後

── バリカンでパニックを起こしたBくんはその後どうなったのですか?

 

赤松さん:僕が「バリカンはもう絶対に使わないからね」と約束して、また髪を切らせてもらいました。最初はやっぱり怯えていてお母さんと手をつないだ状態でしたが、続けていくうちに慣れてきて、手をつながなくても平気になりました。お母さんもBくんから少し離れて携帯での写真撮影も楽しめるようになって。

 

数年後には、髪にドライヤーをあてても大丈夫になり、ついにうちの美容室デビューを果たしました。今、Bくんは生活介護の事業所に通っているんですけど、近くの理容室に事業所の職員さんが連れて行ってくれて、バリカンで刈り上げてもらっているんですよ。

 

── バリカンも使えるようになったんですね。よかった!

 

赤松さん:15年ほど前、AくんとBくんのために「スマイルカット」を始めて、発達障害の本を読んだり、福祉関係の講習会に参加したり、独学で知識を身につけてきました。自分のスキルの引き出しも最初はすごく少なかったけど、2人から多くを学んだし、子どもたちからもらった一つひとつの気づきが大事な引き出しになっています。この2年間は大学院にも通って、発達障害について専門的に学んだんですよ。今年3月に修士論文が書き終わり、無事に大学院を修了することができました。

 

 

発達障害児のお子さんたちの髪を切る活動を約15年続けている赤松さん。その後、「NPO法人そらいろプロジェクト京都」を立ち上げ、発達障害の子どもたちが散髪やシャンプーを当たり前に受けられる社会のための挑戦もしています。

 

PROFILE 赤松隆滋さん

あかまつ・りゅうじ。京都の美容室「Peace of Hair」代表。2010年、発達障害等のカットが苦手な子どもたちのための「スマイルカット」をスタート。障がいのある子どもを対象に活動を全国に広げている。2014年、NPO法人そらいろプロジェクト京都を設立。2025年2月には活動内容を紹介した書籍『スマイルカットでみんな笑顔に!発達障がいの子どもによりそう美容師さん』が出版。自身の著書(絵本)に『ピースマンのチョキチョキなんてこわくない!』『ピースマンのまほうのハサミ』がある。

 

取材・文/高梨真紀 写真提供/NPO法人そらいろプロジェクト京都