余命宣告後は「時間への執着が強くなった」

── 竿下さんとお話ししていると、ステージ4のがんで闘病中だとは思えません。以前とあまり変わらない生活を送っているとのことですが、自覚症状も変わりはありませんか?

 

竿下さん:痛みがあるときとないときがあるのですが、がんが原因かはわかりません。原因不明の症状が出るのが、抗がん剤含めてがんの特徴だそうです。そして、人によってあらわれる症状がまったく違います。でも、疲れがたまると確実に身体のあちらこちらに痛みが出るので、そんなときは身体からのサインだと理解して、あちこち痛み始めたらしっかり休んでいます。     

 

竿下和美
闘病しながらNPO法人京田辺音楽家協会理事長として精力的に活動

── がんになって、ものの見方などで変化したことはありますか?

 

竿下さん:時間を大切にするようになりました。悪い意味でも、時間への執着は増し、友人が集合時間に遅れると「10分も待たせるなんて」と、以前より気にするようになりました(笑)。同時に、やりたいことは早くやっておきたい気持ちも強くなりました。以前から、「音楽は一部の人だけのものではない」「音楽を広く世の中に広めたい」と、各地で演奏活動をしています。その集大成として初心者や子どもも参加できる「3世代第九コンサート」を開くのが長年の夢だったんです。これは、理事長を務めるNPO法人で5年くらいかけて取り組む予定でしたが、がんが発覚してからは「私が生きているうちに実現しよう」と決めました。

 

 

がんを患った闘病でも、「命ある時間で何をするか」と、前向きにときを過ごす竿下和美さん。長年考えていた夢「3世代第九コンサート」の開催実現に向けて、前倒しで行動に出ます。やがて、人生に傷を負った人たちも引き寄せられ、盛大なイベントになりました。
 

PROFILE 竿下和美さん

さおした・かずみ。京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専修卒業。在学中から定期演奏会、学外コンサートなどに選抜出演。ピアノ教育連盟オーディション全国大会出場、堺ピアノコンクール、フランス音楽コンクール奨励賞、京都ピアノコンクール第2位、長江杯国際音楽コンクール第1位など受賞。サックス&ピアノユニット「ティーモ」として活躍。平安女学院大学非常勤講師。日本クラシック音楽コンクール本選審査員。NPO法人京田辺音楽家協会理事長。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/竿下和美