キッチンのシンクに両手をついて涙を流した

── 最初は兄妹で一緒にゴルフに取り組んでいたのですか?
須藤さん:そうです。実は長男もアメリカの小さな大会で、弥勒と兄妹でアベック優勝しているんですよ。長男6歳、弥勒4歳のときです。優勝後長男が私たちに「優勝したからゴルフを辞めさせてください!勉強頑張るから、ゴルフはもういいです」と言ってきました。練習も嫌いでしたし、夫の指導がつらかったんでしょう。やはり親から「練習しなさい」「お金がもったいないから頑張りなさい」という言葉が出るような習い事は続けるのが難しいし、伸びないと思います。「勉強しなさい」もダメです。好きだったら言わなくてもやるはずなんです。弥勒からも、今後「ゴルフを辞めたい」「もうイヤだ」という言葉が出るようなことがあったら、即辞めさせます。
── ということは、弥勒さんは今まで一度も「辞めたい」と言ったことがないんですか?
須藤さん:ないです。トレーニングがつらくて泣いているときや、トーナメントで悔しい思いをした後に、逆に私から「辞めてもいいよ」と言うことはあるんですけど「私はゴルフが好きだから頑張る!」と、涙を拭きながら言うんです。キッチンから自宅前の練習場が見えるのですが、弥勒があまりにハードな練習をしているのを見て私のほうがつらくなって、シンクに両手をついて泣くことが何度もありました。夫の指導がどんなに厳しくても、必ずいい結果につながると信じているから、私が弱音を吐いていてはダメなんですよね。
たとえばこのボールをはずしたらスクワット100回、というルールがあって、弥勒がはずすことが続いてスクワットの回数が1000回を超えたときがあったとします。それでも、私はその練習を絶対に中断させない、と決めています。そこで私が子どもかわいさに「50回でいいんじゃない?」と言うことは簡単なのですが、それはその子の成長を妨げることになります。

── 決めたルールは守ったほうが成長につながるということですね。
須藤さん:自分自身の後悔から来ている部分があるんです。私は小学生のころ、フィギュアスケートかピアノを極めたいとレッスンに打ち込んできましたが、毎日ハードな練習をしていたので、フィギュアのコーチが決めた日課の筋トレが夜中になることもありました。それを見て母が「もう夜遅いから寝たほうがいいんじゃない?」「回数を減らしたら?」と言ってくると、私も子どもだし疲れているから「じゃあ、辞めちゃおう」となって筋トレをさぼるわけです。そういう日々の積み重ねで、本来ならトータル1000回できているはずの筋トレが500回、300回になってしまう。中学時代に全国大会の結果が11位で終わったとき、結果論ではあるんだけど、毎日の筋トレをさぼらず頑張っていたら10位以内に入れたんじゃないか…という気持ちが芽生えて、それ以来ずっと自分の中に残っているんです。
コーチの言うことは正しかったとも思いました。だから、子どもの前では、夫の指導に口を出すことはしません。口を出してつらい練習を辞めさせることは、子どもを助けることになっていないんです。子どもがどんなに泣いて助けを求めていても、心を鬼にして助け船は出しません。
── つい、かわいそうだと思って口出ししたくなりますよね。
須藤さん:そうなんです。それはもう葛藤の毎日ですが、子どもが成長していくためには、決めたことは貫き通す意思の強さを親も持たなくてはいけない。もちろん、夫が間違っていると思ったときや、どうしても言いたいことがあったら、夫婦だけの時間に話します。