子どもの表情ひとつで変化がわかる

── そうした指導の成果やご本人の努力があって、弥勒さんのゴルフはどんどん上達していったのでしょうか?
須藤さん:はい。めきめき上達していったので、トーナメントに参加し始め、やるからには優勝を目指したいと思うようになりました。これもまた私自身のピアノの経歴を振り返ったときに、コンクールのタイトルがないことがコンプレックスだったので、早いうちにタイトルを取っておいたほうがいいと知っていたからです。そこで、夫が海外の大会を調べてくれて、世界のジュニア大会に参加するようになりました。
── 弥勒さんが5歳となった2017年には世界ジュニアゴルフ選手権(6歳以下の部)で史上最年少優勝を果たしていらっしゃいます。
須藤さん:はい。その後もジュニア世界大会に挑戦し続けて5度優勝し、4冠のメジャータイトルを制覇しました。ほとんどの大会で、私がキャディーを務めています。キャディーを人に任すことも考えたのですが、親ほど子どもの表情ひとつで変化がわかる人はいないと思い、できる限り一緒にコースを回ろうと決めました。でも、海外では試合中に何度も妨害にあいましたよ。パターを打つ瞬間にカートを倒されたり、急に傘を開かれて集中力をきらされるようなことをされたりもしました。世界大会でもそういったことが日常茶飯事でした。
それに家族で海外の大会へと行くわけですから、旅費などで毎回100万円単位のお金が飛びました。当時は小銭貯金はもちろん、化粧品代がもったいないので私は化粧をしなくなり、洋服も同じものばかり着てきり詰めていました。今でこそスポンサーがついてくださっているので、最近になってやっと夫が化粧水やクリームを「このくらいの贅沢をしてもいいんじゃない?」と、プレゼントしてくれるようになりました。

── 今後の弥勒さんにどんなことを期待しますか?
須藤さん:2024年8月に日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の出場規定を満たし、国内女子プロツアーデビューしました。今年はまず、女子プロのツアーで予選を通過することが目標です。ジュニアやキッズではなく大人と一緒のツアーは、成長が遅い弥勒にはまだ少し厳しいですが、できるかぎりサポートしていきたいと思っています。
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世界大会で5回優勝し、史上初のジュニアメジャータイトル4冠を制覇した須藤弥勒選手。サポートしているみゆきさんがピンク色の髪でキャディーを務める姿にも注目が集まりましたが、髪を染めたきっかけは2023年に発覚した乳がん。好きなものに囲まれたほうが気持ちが明るくなる、という理由からだったそうです。
PROFILE 須藤みゆきさん
すとう・みゆき。1972年群馬県生まれ。2歳でピアノを弾き始め、武蔵野音楽大学を卒業してピアニストに。小学3年生から始めたフィギュアスケートでは2度の国体出場も果たす。3人の子どもを育て、長女の弥勒さん(13歳)は昨年、全日本女子プロゴルフのツアーデビュー戦に出場した。
取材・文/富田夏子 写真提供/須藤みゆき