人生のどん底を実感するなかで、人は何をして、どう他人と関わるか。「自分には関係ない」と思う方もいるかもしれませんが、ザブングル加藤さんの失意の経験は気づきの多いものでした。人が人に救われる実体験に耳を傾けます。(全4回中の4回)

入浴の介助は超重労働「介護の厳しさを知った」

── 2019年の闇営業問題で一時活動を中断していたサブングル加藤さん。その間、熊本県に住み、介護施設でボランティアとして働くなかで、自分の人生を見つめ直す経験をされました。あらためて当時の状況を伺えますか?

 

ザブングル加藤
人生のどん底に落ちたザブングル加藤さんが「人生が救われた」介護施設での様子

加藤さん:6年前に3か月間の謹慎処分を受けました。その間、所属事務所のホームページ上でボランティアの募集をかけ、縁あって、熊本県の介護施設で1か月間、働かせていただくことになったんです。施設の近く…といっても、歩いて40分くらいの場所に、月3万円で1か月間だけアパートを借りました。熊本の生活のためだけに家電を買うわけにはいかないので、冷蔵庫やテレビ、洗濯機はなし。自粛するにはふさわしい部屋でした。

 

朝8時から夕方5時までの勤務でしたが、介護の仕事がいかに大変で重労働か、身に染みてわかりました。たった1か月であれほど大変なのだから、長く働いていらっしゃる現場の方には本当に頭が下がります。熊本県の施設から戻ったあとも、さまざまな介護施設でレクリエーション活動を行いました。

 

── 不祥事を起こした芸能人が介護施設でボランティアをすることに対し、ネガティブに受け止める声もありますが…。

 

加藤さん:そういう風に見られてしまうことは理解しています。ただ「どうせタレントがちょっと手伝いに来るだけでしょ」という感覚でとらえられたくなかったので、「スタッフさんや入居者の皆さんに認めてもらえるくらい懸命に働こう」と、覚悟を持って向かいました。毎日、気合いを入れて15個ほどある施設内のトイレを超ピカピカに磨いていたのですが、最終日になって、トイレ掃除は清掃業者の担当だったと知りました(笑)。

 

大きな施設だったので90人ほどの入居者の方がいらっしゃるのですが、まずは全員の名前をちゃんと覚えないといけません。とはいえ、同じ名字の方が4、5人もいらしたり(笑)。でも毎日、名前を呼んで接しているうちに、いつのまにか覚えていましたね。僕は資格を持っているわけではないので、みなさんの話し相手になったり、食事介助や血圧を測ったり、入浴の補助をさせていただきました。

 

ザブングル加藤
「人生終わった」と落ち込んでいた時期に、人生の大先輩たちの言葉に励まされた

── 何がいちばん大変でしたか?

 

加藤さん:入浴補助ですね。脱衣所で着替えのサポートをするのですが、車いすの方の手伝いがあれほど重労働だなんて初めて知りました。お風呂から上がった後も、完全に体を拭いてからでないと衣服がひっかかってしまう。足がちょっとでも濡れていると、靴下をはかせるのにも時間がかかってしまうんです。なので、ていねいに拭いてからドライヤーで髪を乾かして。90人の入居者が2日に1度お風呂に入るので、毎日45人の入浴補助をさせていただきましたが、最初のころは本当にへこたれそうになりました。でも、入居者のおじいちゃんおばあちゃんたちには、すごくよくしていただいて、その優しさが心に染みましたね。

 

いまでも忘れない言葉があります。当時、不祥事を起こして謹慎になり「人生もう終わったな」と思っていたんです。でも90歳くらいのおばあちゃんから「加藤くんはいくつなの?」って聞かれ、「45歳になります」と伝えたら、「そう。それなら人生あと3回はやり直せるわね」と言われたんです。3回もやり直せるんだなと思ったら、心がラクになって、再び前を向くことができました。