キャリアを変えた際、時として過去の経験がそれからにつながることがあります。テレビ朝日系『有働Times』で、ピアノの弾き語りをしながら気象予報をする姿が話題の片岡信和さんは、戦隊役者時代がありました。過去と未来はどうつながったのでしょうか。(全3回中の2回)
大学3年で役者になろうと決意して事務所へ
── 日曜20時56分からのテレビ朝日系『有働Times(タイムズ)』のピアノ弾き語り天気予報で話題の片岡信和さん。これまで、役者としてキャリアを積んできましたが、芸能界入りのきっかけは?

片岡さん:大学3年生のとき、役者になりたくて事務所に応募しました。それまで演技経験はなかったのですが、映画がずっと好きで、ミニシアターなどに通いつめ、役者がムリでも映画ライターになりたいと考えていたくらいです。20歳でこの世界に入るのは遅いほうにも思え、早くから活動を始めていた同年代の人たちとは雲泥の差でした。悔しい思いもしながら、短時間で貪欲に学んで、心が折れなかった自分をほめてあげたいですね。
── 片岡さんは、当時、中央大学総合政策学部に在籍しており、まわりは就職活動をする人たちがほとんどだったと思います。ご両親の反応は?
片岡さん:両親は最初、あきれていました。でも、今振り返っても僕の選択は正解だったと思います。当時は無知の強みもあり、好奇心のまま一歩を踏み出せました。年齢とともに知識や経験が増えると、やらない理由や先延ばしにする言い訳を探してしまいますが、心のまま進むというのはこれから生きていくうえでも大切にしたいです。20代は「もっといろんな人に会いたい」「いろんな作品に出たい」と勢いもあって、純粋に楽しい時期でした。「オーデイションに落ちた」「あの人の芝居の前に飲みこまれてしまった」と、すごく悔しくてシャワーを浴びながら悶々とすることもありましたが、「明日は絶対負けないぞ」と心を奮い立たせました。
「早朝3時に集合」戦隊作品で鍛えられた日々
── 2008年、大学4年生で東映の戦隊ヒーロー「炎神戦隊ゴーオンジャー」のゴーオンブルー・香坂連役に抜擢されました。
片岡さん:はい。2008年は、僕が地球の平和を守っていました。いえいえ、御礼にはおよびません(笑)。真面目な話をすると、新人の若者が主役を演じる作品は限られているので、「ゴーオンジャー」はとても貴重な経験でした。とくにドラマ撮影の現場のイロハや心構えなど、基礎から本当に丁寧に、そしてときには厳しく教えてもらい、後にとてもいきています。
ただ、視聴者から見れば、僕たちが慣れない新人であろうとなかろうと、関係ありません。子どもたちは100%僕らを信じて応援してくれるので、その思いに応えようと必死でした。撮影現場でいろいろ教えてもらいながら、プロ意識がしっかり根づきました。

── 貴重な現場経験ですね。撮影現場で大変だったことは?戦隊作品特有の難しさもあったのではないでしょうか?
片岡さん:ある意味、濃密で過酷な1年半でした。まずスケジュールがすごかったんです。撮影のある日は、練馬区の大泉学園にある東映撮影所に朝3時集合し、3時50分にロケ地へと出発。みんなでバスに乗って、関東北部に怪獣を倒しに行くんです。なぜ、早朝から撮影するかというと、夜間は視野が狭まり撮影が危険なためと、ほとんどが日中の撮影になるからです。冬は夜明けから日没までの時間が短いので、大忙しでした。
日中のロケが終わって東京に戻ってきたら終わりではなく、そこから室内シーンの撮影に入ります。撮影は夜10時、11時まで続くことがあるほか、翌朝がまた早朝集合ということもありました。ドラマの撮影は移動時間、カメラの位置変更、たくさんのカットの撮影など、本当に時間がかかるものなのです。
── それは気力、体力ともに相当のパワーが必要ですね。睡眠はとれていましたか?
片岡さん:移動時間が唯一休める時間なので、寝られるときに寝ていました。いまも、朝の情報番組に出ているので平日は4時起きですが、戦隊作品の撮影に比べれば余裕です。ちなみに「ゴーオンジャー」時代から、遅刻したことはありません。当時は夜7時に帰宅できたら、晩御飯をゆっくり食べられるので「しめた!」という感じでした。「夜中12時超えなくてよかったー」というレベルですね。
「ゴーオンジャー」の撮影スケジュールを経験したおかげで、その後、どんなにきつくても動じることはありません。でも、若いころは体力があるので、きつさよりも、ただ楽しかった印象です。毎日が部活や文化祭の延長のように思えて、いろいろ吸収しながら、ワクワクして過ごしていました。
── 役者業の基礎になる経験をした「ゴーオンジャー」。戦闘シーンでは、ご自身もアクションをしていたのですか?
片岡さん:変身してからは、プロのスタントマンが演じますが、僕たちも1年間アクションを習い、変身前の危険なアクション以外は自分たちで演じました。でも、毎年恒例の戦隊作品の伝統としてあるのですが、最終回は変身後も自分たちで最後まで戦いました。変身後のスーツ・アクターは、アクションのスペシャリストとして鍛えており、身体もがっちりしているので、僕とは体重差が10キロくらいありました。だから、僕が戦隊スーツを着るとブカブカ(笑)。最終回のいちばん強い敵と、初めて戦隊スーツを着たひ弱そうな僕たちが戦っている情景は対比的で、この伝統を知っている人が見れば、最終回はかなりおもしろいんですよ。