念願のカフェ経営をスタートするも、熊本地震で全壊し、わずか3か月で撤退を決断したスザンヌさん。当時を振り返り「その決断はかえってよかったかもしれない」と明かします。38歳で旅館経営をスタートさせた背景には、カフェ閉店後にもがき続けた30代がありました。(全3回中の1回)

熊本にカフェをオープンするも3か月で閉店

スザンヌ
穏やかにお話してくださったスザンヌさん

── 熊本県の元旅館を購入し、2024年12月から「KAWACHI BASE-龍栄荘」(カフェや温泉、旅館を構える施設、旅館は2025年2月グランドオープン)としてリニューアルオープン。カフェスペースを備えた宿泊施設のオーナーとして、スタートをきったばかりのスザンヌさん。カフェの経営は、実は2度目のチャレンジです。2016年に熊本市内にカフェをオープンするものの、その直後に熊本地震が起き、カフェが全壊してしまうという出来事がありました。あらためて当時のことを伺えますか?

 

スザンヌさん:2015年に熊本に移住した翌年、知り合いのお肉屋さん家族と一緒に「8%」というカフェをオープンしたんです。地元のお母さんたちが小さな子どもを連れてくつろげる空間を作りたいなという思いがあり、カフェ経営はずっと夢でした。当時はまだ経営のことは何もわかっていなかったのですが、「勉強しながら一生懸命頑張るぞ」とやる気に満ち溢れていました。熊本で地震が起きたのは、その3か月後のことです。

 

地震が起きたときは周囲のみんなが大変な状況で、私たちの店より、もっとひどい被害を受けているところがたくさんありました。ですから、店の食材を使って炊き出しをするなど、とにかく自分達ができることをしようということしか頭になかったですね。

 

── その後、お店を再開するのではなく「閉店」という決断をされました。

 

スザンヌさん:今だったら、「もう一度挑戦しよう」と立て直す覚悟を決めることができたのかもしれませんが、お店にもかなりの被害がありましたし、ここからもう一度、お皿やインテリアなどをイチから選び直してやっていくのは、さすがにお金がかかり過ぎて無理だなと。震災で引っ越したばかりのマンションも半壊し、心が折れてしまったんだと思います。当時、子どもはまだ2歳と小さかったので、いろいろ考えた結果、いったんお店を閉めることにしたんです。

 

── 苦渋の選択だったわけですね。

 

スザンヌさん:その後、もう1回店をやるかどうか悩みました。私は芸能の仕事がありましたし、共同出資者の家族は本業のお肉屋さんがあったので、それぞれの仕事を優先しようということになりました。ただ、あとから思えば、あのとき撤退するという決断をしてよかったのかもしれないなと思うんです。

 

── それはなぜでしょう?

 

スザンヌさん:わずか3か月間でしたが、「経営って大変なんだな…」といろいろと課題を感じ、壁にぶつかっていた時期でした。最大40席ぐらい入れる広めの店だったので、カフェがメインで単価が安いのに人件費がかかってしまい、なかなか儲けが出なくて。仕入れの価格や人件費などの経費と、自分がやりたいことを照らし合わせながら経営していく難しさを実感しました。もしもあのまま続けていても、お店の経営がうまくいかず、いずれ店を閉めることになっていた気がします。あまりに素人でしたね。

 

ですから、次に何かをやるときは、経営や数字のことをもう少し勉強してから、もう一度チャレンジしてみたいなという気持ちはずっとありました。高校や大学に行ったのも、そうした思いがきっかけのひとつになっています。