「重々しさより明るさ重視」でブレイク

── おふたりの芸風は明るくおめでたい雰囲気を感じます。狂言風漫才を始めたころから、明るさは意識していたのでしょうか?

 

南條さん:そんなことはないです。最初はもっと能を意識していて、重々しい空気のなか、しかめ面でネタを言っていました。能の厳粛さとお笑いのギャップを狙ったつもりでしたが、わかりにくいんですよ。明るいほうがぱっと見て「おもしろい!」と、笑ってもらえると感じたんです。最近では、伝統演芸・太神楽で人気を博した故・海老一染之助・染太郎師匠の雰囲気に似ていると言っていただいています。お正月などおめでたい時期に呼ばれるケースが増えました。

 

三島さん:狂言風漫才をはじめとして和風に寄せてから、ずっと試行錯誤の連続です。いろんな言葉を和風に言いかえる「和風変換」は、少しずつ変化していますね。たとえば、ゲームの「あつまれ どうぶつの森」は、「つどえ!けものどもの藪(やぶ)」みたいに和風に言い換えているんですが、最初はもっと昔の言葉を多く使っていました。でも、あんまり聞きなれない古語を多用すると、観ている方たちも僕たちも疲れてしまうし、飽きやすいと気づいて。ふつうに話すなかで、ポンっと和風の言葉を入れたほうが楽しめると感じるようになりました。

 

南條さん:年配の方からは「和風変換って何?」と、言われることはけっこうあります。たとえば「エヴァンゲリオン初号機を和風変換したらどんな言葉になるか」と言っても、そもそもエヴァを知らない方もいらっしゃるわけです。お客様の世代などを見てどんなネタを使おうか考えています。小学生のころの遊びなどをネタにすると、わりと全世代にウケるのですが、バランスが難しいですね。

 

すゑひろがりず
日本の伝統芸能の奥深さを学ぶ機会が増えたという

── ウィキペディアを見ると、南條さんの趣味は寺社巡り、三島さんの特技は津軽三味線と、かなり和風ですね。

 

南條さん:いや…これはかなり盛ってます。以前はなんでも仕事につながらないか考えていて。ウィキペディアには「趣味は浮世絵鑑賞、寺社めぐり」とあるんですが、正直に言うと趣味というほどではなくて…。若手のころアンケートを書く機会があると、できるだけ芸風に寄せて、和風な趣味を書くようにしていました。歴史も寺社巡りも好きは好きですが、毎週どこかに行く、みたいな感じではないです。

 

三島さん:僕も同じです。少しでも世に出たい一心です。以前、プロフィールを見てくださった方から、本当に三味線の仕事をいただいたことがありました。でも実際は弾けないから、現場で謝りまくったことがあります。本当にすみませんでした!

 

── 狂言を取り入れることで、日本の伝統芸能に触れる機会も多いと思います。

 

三島さん:日本の伝統芸能の奥深さを痛感します。狂言って、600年以上の歴史があるらしいです。日本で生まれ育つと意識しなくても、誰もがどこかのタイミングで能や狂言に触れているんだと感じます。僕たちはそれをフリにして、笑いを取らせていただいているんですよね。狂言風漫才に取り組むことで、能楽師の野村太一郎さんに狂言を教えていただく機会や、イベントに呼ばれることも増えました。とてもありがたいことだと感じます。

 

 

もがき苦しんだ30代を経て、狂言風漫才というスタイルを確立したすゑひろがりず。仕事が軌道に乗る最中にふたりともお子さんが生まれます。しかも南條さんはふたごの娘さん。当時の生活はやはり、そうとう大変だったそうです。

 

PROFILE すゑひろがりず

お笑いコンビ。2011年、NSC大阪校28期生の南條庄助と三島達矢がコンビを結成。日本の伝統芸能である狂言の要素を取り入れた「狂言風漫才」が注目を集める。2014年、キングオブコント準決勝進出。2019年、M-1グランプリ2019決勝進出。2020年には南條庄助がR-1ぐらんぷり第3位を獲得。2022年、第七回上方漫才協会大賞で大賞受賞。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/南條 庄助、三島 達矢