3年くらい前まで「就職しろ」と言われ続けるも

── 学歴というワードが出ましたが、稲田さんは関西外国語大学のご出身です。大学選びの際にご両親から助言はあったのでしょうか?

 

稲田さん:大学は自分で決めました。当時得意だった英語だけでテストを受けられる学校だったので。両親からは「どこでもいいけど大学に行くのはマスト」で「先生になってほしい」と言われていました。だから、「芸人になりたい」って言い出せなくて…。母方はおばあちゃんも先生で、周りが先生しかいなくて。教員免許を取るのが当たり前っていう感覚なんですよね。

 

── 逆境のなか、どういうきっかけで「芸人になりたい」と伝えたんですか?

 

稲田さん:大学3年のときに電話で「来年、大学通いながらNSC通うわ」って伝えたんです。そしたら「就活やらへんの?」ってむちゃくちゃ怒られました。芸能の仕事をしてる親戚もおらんから「危ないとこなんやろ?」って心配されて。どうしても就職してほしかったみたいで、母が私の代わりに就活セミナーに行って、資料をもらってくることもありましたね。

 

── そんなご両親が「就職しなさい」と言わなくなったのはいつごろですか?

 

稲田さん:3年前ぐらいまでは言われていた気がします。芸人になってからもずっと「教員免許取って」って言われ続けてて。『THE W』で決勝に行っても「いつ会社員なんねん」とか、そんな連絡がずっと来てました。実は、常に給料を両親にわかるようにしていて、だんだん「食べられてるよ」ということだけはわかったみたいです。そのせいか、いつの間にか言われなくなったんですけど。ただ、父はいまだにお笑い芸人という仕事が理解しきれないみたいで「なんなんやろう?」とは言ってますが。塾の先生としていろんな進路を見ていても、芸能に進む子はほんまにいないから、どうしてもわからないみたいです。

 

お笑いコンビ・紅しょうが
『THE W』で優勝したときの1枚(Instagramより)

── 最後に、両親が先生でよかったことを教えてください。

 

稲田さん:母の人脈ですかね(笑)。地元の(大阪府)和泉市で何度か「紅しょうがまつり」というライブをやっているんですが、2021年は人気があるゲストに出てもらっても集客に不安があって。「THE W」も優勝前でしたし、和泉市でも田舎のほうの会場だったので。そのときに、母が30人くらい友達を引き連れてきてくれたんです。先生をやっていたおかげで顔が広くて「おかんすげえな」って(笑)。

 

── 芸人になることを反対していても、ライブは見に来てくれるんですね。 

 

稲田さん:そうなんです。でも、たぶん「全力で応援」みたい感じではないはず。「THE W」で優勝したときも、親的にも「何回出んねん!」って気持ちがあったらしくて、「1階と2階で別々で見てたわ~」とか言ってたんで。5回も決勝の緊張を味わわせて、2人には迷惑かけました。

 

でも、父はお笑いへの評価が厳しくて、感想を聞くと「俺は笑わんかった」って言われます。勉強のことより厳しいかもしれません(笑)。

 

 

教育一家に育ち教職者になることを切望されながらも、芸人になる夢を諦めなかった稲田さん。『THE W』で見事優勝し名実ともに人気芸人となった今、最大の関心事は「婚活」だそうです。

 

PROFILE 稲田美紀さん

いなだ・みき。大阪府和泉市出身。2014年に後輩の熊元プロレスと『紅しょうが』を結成。2022年から活動拠点を東京に移し、2023年に「THE W」(日本テレビ系)で優勝。劇場を中心に活動しながら、テレビ番組「私が愛した地獄」(テレビ朝日系)や、ポッドキャスト「紅しょうがは好きズキ!」などに出演中。

 

取材・文/髙木章圭 写真提供/稲田美紀