しつけはいちからのスタート
── 繁殖引退犬を2匹飼って感じる性格などの特徴はありますか。
有村さん:本当に犬によってまったく違います。先代のダイアンは、ものすごく穏やかで、誰にでも優しく噛んだこともありません。怒ったことも、吠えるところも見たことがないような天使の穏やかさでした。ブリーダーさんがお散歩にも連れて行っていたので、お散歩もスムーズでしたし、とにかく受け入れやすい子だったんです。そのとき無知だった私は、「母犬って穏やかで優しいんだ」と思っていました。
![有村実樹さんと愛犬](https://chanto.ismcdn.jp/mwimgs/c/9/780w/img_c9071617cdcccbf85d8d7ea93026813e964085.jpg)
ところが、今飼っているイリスは、真逆でした。引き取ってきたその足で首輪とリードを買いに外に出たのですが、すぐに連れて帰ったのを覚えています。外の光や車が走る音にガタガタ震えて怯えていました。寝る場所を家に用意したのですが、イリスはトイレシートの上でしか寝ないんです。それを見て、きっと寝場所がそこだったんだなと思いました。部屋の敷居も怖くてまたげなかったのは、これまで狭いケージの中でしか生きてこなかったからだと思います。外に出たことがないので、ちょっとした段差に怯えて、階段も怖くて歩けないし、マンホールも怖い。トイレのしつけもいちから始めました。いちばんびっくりしたのが、ものすごく噛むことです。それもイタズラの甘噛みではなく、自己防衛の噛み方でした。
── どんなときに噛むのですか。
有村さん:初めて噛まれたのが、寝る前に「おやすみ」と言って抱っこしようと手を出したときでした。パニックになったようにキャンキャン鳴きながらだったのでなぜだろうと考えたのですが、人から何をされるかわからないという恐怖心と、テリアの気の強い気質から来ていたようです。動体視力がいいので、目の前に落ちたものを拾おうと手を出しただけでも噛んでしまうんです。こちらが少し気を許してしまうと自分が上だというような主張も強い性格でした。主導権を取られそうになることがあったので、しっかりしつけていく必要がありました。イリスの近くに物が落ちても、すぐに拾うことはありません。まずはおやつで別の方向に誘導して、イリスがその場から離れてから拾っています。足元にイリスがいたら、ちょっとでも当たると噛まれてしまうので、まずイリスがいないかどうか確認してから立ち上がります。だんだんイリスがいる生活に私たち家族が慣れていったという感じですね。
── イリスとの生活について相談できる方はいらっしゃいますか。
有村さん:トリミングに連れて行ったときに、トリマーさんから「イリスが歯を当ててきて、それもただの威嚇ではなく、本気で噛もうとした」と言われて。その方からドッグトレーナーさんを紹介していただきました。トレーナーさんからは関係の築き方やお散歩の練習、リーダーシップの取り方などを教わっていて、「ベタベタするのではなく、いい上司になった方がいい」と言われました。親子のような関係でいい犬もいるけど、イリスの場合は、上司と部下のようなキリッとした関係の方がうまくいくとのことでした。前はちょっと足が当たっただけでも噛まれていたのが、今は「びっくりした」で終わるときもあります。センサーがやわらいできたというくらいで、まだ噛まれることもあるのですが、この子は一生噛むだろうと構えています。
![有村実樹さんの愛犬](https://chanto.ismcdn.jp/mwimgs/e/c/780w/img_ecd14d567c5746b846d5aaa74e13d2852834181.jpg)
── 小さいお子さんがいらっしゃると思いますが、どのように生活をしていますか。
有村さん:出産前から子どもとの関係は心配していて、トレーナーさんにも妊娠中からどう共生していくか相談していました。以前はベビーゲートで生活の空間をわけていましたが、子どもが自由に歩き回るようになるとそれはできません。犬には高低差が効果的なようで、ソファーは人が座る場所で、私たちがいるときにイリスは乗ってはいけないというようにトレーニングしました。
それでも、イリスが甘えたいときに子どもの世話をしていて甘えられないと、イリスがわざとトイレを外すこともありました。繊細な性格なので、「今はこの子の世話をしなくちゃいけないから、あなたはここで待っててね。終わったらするからね」と意識して声がけをしていました。そうすると、イリスも自分を見てくれているという意識が芽生えているようでした。あとは、子どもを家族に見てもらっている間にイリスとお散歩に出かけることもあります。もう、わが家の長女ですね(笑)。
でもやっぱり、可哀想なのですがうちの子どもが吠えられたり、以前少しだけ噛まれてしまったこともあったりしました。子どもも3歳ながらに、どうするとイリスが噛んでしまうかがわかってきて、イリスも息子がどういう動きをするかを見ていくようになりました。私たちも気をつけて見ているので最近は噛まれることはありませんし、お互いに慣れて仲良くしています。子どもには「イリスが後ろにいるから、ちょっと止まってね」というふうに丁寧に伝えています。