Kiroroのボーカルでソロアーティストとしても活躍する玉城千春さん。Kiroroのメジャーデビュー20周年を機に、これからの生き方について見つめ直したそうです。(全4回中の1回)

デビュー20周年を迎え「私はどんな歌を」

── 2018年にKiroroのメジャーデビュー20周年を迎え、心境に変化があったそうですね。

 

玉城さん:20周年の記念イヤーに向けて、コンサートをはじめ忙しく動いてきました。この20年を振り返ってみると、曲への向き合い方にも変化がありましたし、子育てで休んでいる時期もありました。

 

フィリピンの子どもたちと玉城千春さん
「みんないい笑顔!」フィリピンの児童養護施設を訪れた玉城千春さん 協力/認定NPO法人CFFジャパン 

ここから私はどんな歌を歌いたいんだろう、どんな生き方をしたいんだろうと考えるようになって。40歳を迎えるタイミングでもあったので、何か心が揺れる体験をしてみたいと思うようになりました。そこからまた曲作りにも繋げていけたらいいなって。

 

── 玉城さんは中学3年生のころから曲を作っているそうですね。

 

玉城さん:中学校3年生のとき、母がひどい風邪をひいていた姿を見て、何か母が喜んでくれることをしようとアカペラで歌ってプレゼントした曲が『未来へ』でした。そこから1年に1曲ずつ誰かにプレゼントをするという形で曲作りをしていたんです。私の場合、歌はいつも実体験から生まれるもので、誰かに喜んでほしいという思いが根底にありました。

マレーシアの児童養護施設での出会い

── 新しい経験をしてみたいという思いから、2019年にマレーシアの児童養護施設を訪れたと伺いました。

 

玉城さん:マレーシアの児童養護施設の運営をしている方から、現地では今も『未来へ』が日本語で歌われているという話を聞いたんです。「施設の子たちも歌っているから、ぜひ歌いに来てほしい」とお誘いを受けました。当時、長男が中学生で、親離れを感じはじめていた時期でした。親の手を離れていく前に、子どもと一緒に過ごす時間を作りたいという思いもあって、わが家はご縁を繋げてくれたママ友家族と一緒に、家族全員でマレーシアのボルネオ島を訪れることにしたんです。

 

フィリピンの子どもたちと玉城千春さん
フィリピンの児童養護施設の子どもたちとゲームをする玉城千春さん 協力/認定NPO法人CFFジャパン 

── 現地ではどんなことをしたんですか。

 

玉城さん:マレーシアと沖縄の子どもたちがそれぞれ歌やダンスを披露したり、外でスポーツをして体を動かしたり、一緒に料理を作るなどして交流しました。そして、みんなで一緒に『未来へ』を歌いました。この曲を知っていてくれて、喜んでくれたことが嬉しかったです。

 

『未来へ』の歌がどうやって生まれたかについても話をさせてもらい、私が自分の母に送った曲であることを説明しました。そのあと、子どもたち同士で自分の母親をテーマにグループ学習をしたんです。一緒に伺った日本人の子どもたちは自分の母親について「お母さんは優しい」とか「料理が上手」と話していたんですけど。

 

マレーシアの子が、「親のことは話せない」と言って涙を流していたという話を、その日の夜に長男から聞きました。施設には、さまざまな家庭の事情を抱えた子どもたちが暮らしていますので、現地に伺う前はみんなに歌を楽しんでもらって、楽しい思い出が作れたらいいなと思っていたんです。でも実際に伺ってみたら「ここにいる子たちのために、何かをしてあげたい」という思いが強くなって。そこから現地のチャリティーイベントなどで歌わせてもらうことになったんです。

 

── 新たな活動のきっかけになったんですね。

 

玉城さん:施設の子たちは本当に素直です。自給自足に近い形で生活をしていて、自分たちで果物を育てたり、野菜を育てたりしながら、自然の中で育っています。ボランティアの方々の協力があって道路や建物が整備されているんですけど、そういう環境にいる子どもたちには強さと優しさがあると感じました。やっぱり日本はすごく恵まれているので、自分の子育て環境を見ても、綺麗な飲み水もあるし、トイレも水が流れるし、クーラーもある。マレーシアの児童養護施設の訪問を通して、私自身も子どもたちも感じることが多くあり、そこからまた次の活動へのエネルギーが生まれる貴重な経験となりました。

 

 

マレーシア訪問後、玉城さんは感じた思いを胸に、今度は地元・沖縄の児童養護施設を訪れてある取り組みを行います。

 

PROFILE 玉城千春さん

たましろ・ちはる。沖縄県読谷村出身。1995年Kiroroを結成。ボーカル、作詞作曲を担当。1998年1月に『長い間』でメジャーデビュー。以降『未来へ』『Best Friend』など誰もが口ずさめるヒット曲多数。2021 年、10年ぶりとなるソロ活動をスタートし、『命の樹』『Hope Dream Future』『あの人の声』を配信リリース。その他、沖縄県内の小中学校で夢や命の尊さを歌と共に子どもたちに届ける特別授業や、岡本知高、島袋優(BEGIN)への楽曲提供、ビビアン・スーのオリジナル曲、日本語詞を担当するなど、作家としても活動の幅を広げている。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/玉城千春 協力/マレーシア・フィリピン児童養護施設:認定NPO法人CFFジャパン