ナレーター、フリーアナウンサーとして活躍する近藤サトさん。今ではグレイヘアが似合う女性として定着していますが、初めて白髪染めをやめた当時、周囲の反応よりも大変だったことがあったそうで ── 。(全4回中の1回)

「劣化した」と言われることは想定内でした

近藤サト
2020年9月、取材を受ける近藤さん

── 白髪染めをやめて「グレイヘア」と呼ばれるスタイルを定着させた近藤さん。グレイヘアにされたきっかけを改めて教えてください。

 

近藤さん:白髪をオープンにしたのは2018年ですが、その1年くらい前から白髪を染めるのをやめていました。それまでも「この先、白髪を染め一生続けるのかな」という思いはずっとありました。私がやってきた「女性アナウンサー」という仕事は「若々しさ」を売りにしていて、そのフレームに収まり続けるためには努力をし続けないといけない。そのことがしんどくなってきていたのだと思います。

 

白髪は美容院で染めていたのですが、「震災で美容院へ行けなくなったときのために」と薬局で毛染め剤を買って備えようとしたとき、「白髪を世間にバラしてはいけない」と自分が思っていることに気づいて。このままでは、非常時に人のことを省みずに「自分さえよければいい」という行動に走るかもしれない。「いかんいかん!もうやめよう」と思いました。

 

── 当時はグレイヘアという定着する前。白髪で初めてテレビに出られたときはどのような状況でしたか。

 

近藤さん:白髪にしたとき、事務所の社長からは「テレビというフレームからは外れますが、いいですか」と聞かれたんです。それまでは「美魔女的な元女子アナの王道」のイメージがあったから、白髪にしたらオファーはなくなるだろうと。それで、「テレビで顔は出さなくてもいいです」と答えました。白髪をオープンにしたら「劣化した」などと言われることは想定していました。どちらかというと世間がどう思うかより、自分のなかでのリハビリに時間がかかりましたね。

 

── というのは?

 

近藤さん:鏡を見たときに「あ、おばあさんだ」ととっさに思ってしまったんです。当時はルッキズムという言葉もなかったですし、「10歳若見え」なんていう言葉がメディアで取り上げられていました。そういう「若さ至上主義」のようなものに巻き込まれずに生きるほうが気持ちいいと気づいていたはずなのに、白髪を見ると「おばあさん」と反射的に思ってしまう。自分がステレオタイプに毒されていたんですよね。鏡を見るたびに「おばあさんがいる!いやいや、私だ」(笑)。そのリハビリに時間がかかりました。

 

近藤サト
2017年6月、グレイヘア移行期のころ

── 実際の反響はいかがでしたか。

 

近藤さん:初めて白髪で出演したのは東京ローカルの番組で、「みんなどう思うかな」「びっくりするかな」とワクワクしながらスタジオに入りました。そうしたら、完全にスルーされて驚きました。誰も白髪に触れないんです。フジテレビの『バイキング』に出演したとき、坂上忍さんは「いいね」と言ってくださいました。「でも、自分には真似できない」とおっしゃっていましたね。蝶野正洋さんには「サトさん、僕は黒い髪のほうが好きだよ」と言われました。ご自身の理想を口にしてくださるのはすばらしいと思いましたね。

 

今思うと、メディアで「白髪」というものがカテゴライズされていなかったから、それに対するリアクションを誰も持ち合わせていなかったんですよね。当時私は49歳で、その世代の女性に対しては「いつまでも変わらない」「若々しい」という言葉しか持ち合わせていないから、みなさん黙っているしかなかったのだと思います。もちろん当時も白髪の女性はいらっしゃいましたが、90年代のフジテレビのいわゆる「女子アナ」だった人間が突然、白髪にしたから、びっくりされたのかもしれません。

 

初めて白髪のことを取材されたのは、雑誌『婦人画報』のインタビューでした。白髪にしたときは「もうテレビには出られなくてもいい」と思っていたのに、結果的にはテレビ出演のオファーをたくさんいただいちゃいました。