自分にも人にも「変わっていいんだよ」と言いたい
── ご家族の反応はいかがでしたか。
近藤さん:家族に驚きはなくて、「そうきたか」という感じでした。夫は結婚したときから白髪なので、私に「白髪にするな」とは言えないですよね。そもそも私は「白髪染めをやめようと思うけれど、あなたはどう思う?」という相談はしないですね。事後報告です。
「グレイヘアにしたいわ」という方は、まず夫に聞くんですよ。そうすると確実に反対されますね。周りの人はみんな引き留めると思います。人は自分の環境を変えたくないから、周りの人にも変わらないでほしいんです。同窓会で、ひとりだけ白髪を染めていなかったら異分子ですよね。みんなが染めているからこそお互いに「変わらないわね」と言い合えるんです。
でも私はその言葉を死語にしたい。私もつい言ってしまうのですが、「変わらないね」という言葉は「変わらないでね」と相手を強制してしまう。それって勝ち目のない戦いなんですよ。最後はみんな老いて死ぬんだもの。そのことに早く気づくのはかなりおトクだと思います。自分にも人にも「変わっていいんだよ」と言いたいです。
── 同世代の人たちからは、「グレイヘアはハードルが高い」という声も聞きます。
近藤さん:グレイヘアにすると、確実にひとまわり年上に見られます。私は50歳のときに60代に見られました。だから、年齢を気にされる方にはグレイヘアは向かないと思います。それを笑いとばせるというか、許容してくれる職場環境や家庭環境がないと難しいかもしれないですね。
自分が変わってしまうことに引け目を感じる方もいますよね。「変わってしまってごめん」「いつまでも若いお母さんでいられなくてごめん」と人の目を気にするところは日本人的美徳でもありますけれど、そこまで人は自分を見ていません(笑)。それに、あと30年40年たったら、高齢者が増えて白髪染めをしない人も増えるでしょうから、ハードルは下がると思いますよ。
── 近藤さんのグレイヘアに憧れる人も多いと思います。
近藤さん:私は誰かの白髪を見て「ステキだな」と思ってそうしたのではなくて、「エイジズムに縛られている自分を解き放たねば、私にとって豊かな生活はない」と思ってしまったんですよね。よく「近藤の白髪は、ひとつのアイデンティティだ」と言われるのですが、それはあると思います。
私は「みなさん、白髪染めをやめましょう」とは言っていません。講演に来てくださった90歳の女性が「白髪染めをやめたほうがいいでしょうか」とおっしゃったので、「ぜひ染めてください」とお伝えしました。「白髪は染めて、若いままでいろ」という社会的な強制は外されるべきだと思っていますが、本人の意思で白髪を染めることには大賛成です。「夫のために」だっていいと思います。ただ、「自分の意思で染めるのはいいけれど、させられるのはやめよう」とは言い続けたいですね。
PROFILE 近藤サトさん
こんどう・さと。1991年にアナウンサーとしてフジテレビに入社。1998年に退社してフリーランスになり、ナレーションを中心に活躍中。母校である日本大学芸術学部の特任教授も務める。Youtubeチャンネル『サト読む。』では着物の魅力を発信している。
取材・文/林優子 写真提供/近藤サト